ベトナムで人材を雇用する際、避けて通れないのが社会保険制度の理解です。給与計算・採用条件・人件費の試算に直結するため、進出企業や現地法人の人事担当者にとって正確な知識は不可欠といえます。
特に2025年7月施行の改正社会保険法(Law No. 41/2024/QH15)では、加入対象の拡大、年金受給要件の緩和、保険料算定基礎の見直しなど、実務に大きな影響を与える変更が盛り込まれました。さらに2026年には個人所得税法の改正も控えており、総人件費と従業員の手取りの両面で再シミュレーションが求められています。
本記事では、ベトナムの社会保険制度の全体像から、負担率の具体的な数値、最新の法改正のポイント、そして企業が取るべき実務対応までを、日本語で公開されている信頼できる実務解説をもとに整理してお届けします。
この記事でわかること
- ベトナムの強制保険3種類(社会保険・健康保険・失業保険)の全体像
- 企業負担21.5%・従業員負担10.5%という具体的な負担率の内訳
- 2025年7月施行の改正社会保険法による加入対象拡大の影響
- 外国人駐在員の取扱いと企業が取るべき実務対応チェックリスト
ベトナムの社会保険の概要
ベトナムの社会保険は、ローカルスタッフ・外国人を問わず一定条件を満たす労働者に強制適用されます。まずは制度の目的、対象者、保険の種類、運営機関について整理しましょう。
社会保険の目的と構成
ベトナムの社会保険制度は、労働者とその家族の生活を、病気・出産・労災・失業・老齢といったライフイベントから守ることを目的としています。企業が人を雇う場合、原則として「社会保険(SI)」「健康保険(HI)」「失業保険(UI)」の3つの強制保険への加入が義務付けられ、合わせて労働組合費の拠出も一般的です。
これらは個別の制度ですが、給与計算実務上は一体として管理されます。さらに2025年7月施行の改正社会保険法(Law No. 41/2024/QH15)により、対象範囲・受給要件・算定基礎などが大幅に見直され、実務インパクトは小さくありません。
被保険者範囲と適用除外
強制社会保険の対象者は、原則として一定期間以上の労働契約を結ぶ労働者です。改正前は「3か月以上の契約」が一つの基準でしたが、2025年7月以降は「1か月以上の契約」かつ「最低拠出基準額(参照額:例として2,340,000VND)以上の月収」があれば、原則すべて強制加入の対象になりました。
適用除外の代表例としては、定年を超えて雇用される高齢者の一部、他の制度で十分に保障されている公務員等の特定カテゴリーなどが挙げられます。ただし、具体的な判断は職種・年齢・雇用形態によって異なるため、最新の通達の確認が不可欠です。
保険の種類(年金・医療・失業等)
ベトナムの強制保険の内訳は次の表のとおりです。それぞれ保障内容と負担率が異なるため、給与計算時には個別に管理する必要があります。
| 保険の種類 | 主な保障内容 | 外国人の加入 |
|---|---|---|
| 社会保険(SI) | 年金、傷病、出産、労災、遺族 | 条件により対象 |
| 健康保険(HI) | 診察・入院などの医療費補助 | 条件により対象 |
| 失業保険(UI) | 失業給付、職業訓練 | 対象外 |
| 労働組合費 | 組合活動費(法定福利の隣接費用) | 企業負担あり |
制度運営機関と手続窓口
ベトナムの社会保険制度は、ベトナム社会保険機構(Vietnam Social Security:VSS)が一元的に運営しています。雇用主は労働者を採用した時点で、所定の期限内にVSSへ加入手続きを行う必要があります。
近年は電子化が進み、VNeID(電子身分証アプリ)や電子政府ポータルを通じた申請・確認が広がっており、企業側もオンラインで手続きを完結できるケースが増えています。一方で、初回登録や外国人労働者の手続きは書類が多く、現地の人事・労務アドバイザーのサポートを受けるのが一般的です。
ベトナムの社会保険の負担率と給付計算
続いて、最も実務に直結する「負担率」と「保険料計算の仕組み」を見ていきましょう。事業主と従業員の負担割合を正確に把握することは、適正な給与計算とコスト試算の前提となります。
事業主と従業員の負担率一覧
ベトナム人労働者を雇用する場合の標準的な負担率は以下の表のとおりです。企業負担21.5%・従業員負担10.5%、合計で給与の約32%が法定福利費として拠出される計算になります。
| 保険の種類 | 企業負担 | 従業員負担 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 社会保険(SI) | 17.5% | 8% | 25.5% |
| 健康保険(HI) | 3% | 1.5% | 4.5% |
| 失業保険(UI) | 1% | 1% | 2% |
| 合計 | 21.5% | 10.5% | 32% |
外国人労働者の場合は失業保険が対象外となるため、企業負担はおよそ20.5%、従業員負担はおよそ9.5%という目安が示されています。さらに労働組合費として、企業は総支給額の2%、組合加入者の労働者は1%(上限は基礎給与の10%である23万4,000ドン)を別途負担します。
保険料の計算方法
保険料は「保険算定給与」をベースに計算されます。改正社会保険法では、基本給だけでなく定常的な手当も含めた「給与総額主義」に近づく見直しが行われ、企業の法定福利費が増加する方向に向かっています。
ただし、保険算定給与には政府が定める「基礎給与の20倍」という上限が設定されているため、高額給与者については全額が保険料算定の対象になるわけではありません。基礎給与は2026年7月に2,340,000VNDから2,530,000VNDへの引き上げが報じられており、保険料の上限も連動して変動する見込みです。
各給付の算定方法(年金・医療・失業)
主な給付の算定ルールを整理すると、次のリストのようになります。2025年7月以降、特に年金の計算式が統一され、加入期間と性別に応じた年金率を平均拠出基礎給与に乗じる仕組みに変更されました。
- 年金:年金率×平均拠出基礎給与で算定。女性は加入15年で45%、男性は加入20年で45%を起点とし、以降1年ごとに2%加算(上限75%)
- 傷病・出産給付:直近の平均拠出基礎給与をベースに、休業期間や疾病の種類に応じた給付率で計算
- 失業給付:失業前の直近6か月の平均給与の60%を、加入期間に応じた月数分を支給
- 労災給付:障害の程度に応じた一時金または定期給付として支給
任意社会保険についても、年金受給に必要な加入期間が従来の20年から15年に短縮され、より受給しやすい制度設計に変わりました。
給与からの控除と手取り計算の事例
たとえば月給2,000万VNDのベトナム人従業員を例にすると、従業員負担の保険料(10.5%)は約210万VND、手取り給与の計算では総支給額からこれを差し引き、さらに個人所得税(PIT)を控除した残額が手取りとなります。
2026年からの個人所得税改正では、納税者本人控除が月1,100万VNDから1,550万VNDへ、扶養家族控除が440万VNDから620万VNDへ引き上げられる予定です。この改正により、月収約1,700万VNDの単身者は2026年から所得税がかからなくなると報じられ、従業員の手取り増加が見込まれます。企業側は社会保険料と所得税の両面を踏まえた給与シミュレーションが必要です。
ベトナムの社会保険の加入義務と最新の法改正
ここからは、2025年7月施行の改正社会保険法のポイントと、企業が取るべき実務対応を見ていきます。加入対象の拡大は、特に中小企業や外国系企業に大きな影響を与えています。
加入手続きと雇用主の義務
雇用主は、労働契約を締結した日から30日以内に、社会保険機構へ加入登録を行う義務があります。未納や意図的な回避には5,000万〜7,500万VND(約25〜38万円)の罰金、未納総額の12〜15%相当の罰金、日率0.03%の延滞利息が科されるなど、ペナルティは決して軽くありません。
悪質なケースでは刑事責任が問われる可能性もあり、適正な加入・納付はコンプライアンス上の必須事項です。月次の保険料は給与支払と同時に源泉徴収し、企業負担分と合わせて翌月の所定期日までにVSSへ納付する流れとなります。
外国人と駐在員の取扱い
外国人労働者が強制加入の対象となる条件は、以下の3つです。実務解説では2026年時点の整理として、以下の条件が明確に示されています。
- ベトナムで発行された労働許可証(または免除証明)を保有していること
- ベトナム法人と12か月以上の雇用契約を締結していること
- 契約締結時点で定年年齢に達していないこと(2026年時点で男性61歳6か月、女性57歳)
これらを満たす外国人は社会保険と健康保険に加入する義務がありますが、失業保険は対象外とされています。短期駐在やコンサル契約など、契約形態によっては強制加入対象にならないケースもあるため、個別の契約内容に応じた専門家への確認が推奨されます。
最新の法改正のポイント
2025年7月施行の改正社会保険法(Law No. 41/2024/QH15)の主な変更点は以下の表のとおりです。
| 項目 | 改正前 | 改正後(2025年7月〜) |
|---|---|---|
| 強制加入の契約期間 | 3か月以上 | 1か月以上 |
| 任意社会保険の年金受給最低加入期間 | 20年 | 15年 |
| 保険料算定基礎 | 基本給中心 | 給与総額主義に近づく見直し |
| 脱退一時金 | 比較的柔軟 | 厳格化の方向 |
| 判断基準 | 契約形式重視 | 実態としての労働関係を重視 |
特に「実態としての労働関係があれば対象とする」という方針が明確化されたことで、名ばかり業務委託や名ばかり役員で保険を逃れる手法が通用しにくくなりました。パートタイマー、短期アルバイト、一定の役員、自営業者なども条件次第で強制加入の対象となります。
法改正が企業と駐在員に与える影響
企業側にとって最大の影響は、人件費の増加です。加入対象の拡大と算定基礎の見直しが重なることで、これまで対象外だったパートタイマーや短期労働者の保険料負担が新たに発生し、給与体系次第では既存従業員の保険料も上昇します。
駐在員にとっては、年金受給要件の緩和は前向きな変化です。ベトナム国内の拠出期間が15年未満の場合は1年あたり2.25%の補正ルールが適用されるなど、短期駐在でも年金請求のチャンスが広がりました。一方で脱退一時金の厳格化により、帰国時の一括受給が制限される可能性もあるため、駐在員個人としても将来設計の見直しが必要です。
実務上の対応とチェックリスト
改正対応として、企業が取り組むべき実務ポイントを整理しました。特に給与体系の再設計とコスト試算は、2025年〜2026年にかけて優先度の高いテーマです。
- 1か月以上の契約かつ最低拠出基準額以上の収入がある従業員を洗い出し、加入漏れを確認する
- 外国人については労働許可証・契約期間・年齢を再点検し、社会保険・健康保険の加入義務を整理する
- 給与体系を見直し、基本給と手当の構成、役員報酬やインセンティブの設計が新ルールに整合するか検証する
- 2026年からの個人所得税改正を踏まえ、従業員の手取りと総人件費を再シミュレーションする
- 未納・遅延がないか定期的に監査し、罰金・延滞利息リスクを回避する
- 名ばかり業務委託や名ばかり役員などの形式的な契約を、法令に沿った形へ再整理する
これらに加え、進出を検討している企業にとっては、地域選定も重要な要素です。製造業の集積地であるバクニン省、バクザン省、ビンズオン省などは、人材市場や賃金水準が地域によって異なるため、社会保険コストも含めた総合的な検討が求められます。
よくある質問
Q. ベトナムの社会保険の負担率は具体的にいくらですか?
A. ベトナム人労働者の場合、企業負担は社会保険17.5%・健康保険3%・失業保険1%の合計21.5%、従業員負担は社会保険8%・健康保険1.5%・失業保険1%の合計10.5%となります。合算すると給与の約32%が法定福利費として拠出される計算です。外国人は失業保険が対象外となるため、企業負担約20.5%・個人負担約9.5%が目安となります。
Q. 2025年7月の社会保険法改正で、何が一番大きく変わりましたか?
A. 最大の変更点は加入対象の拡大です。従来も法令上は1か月以上の契約が対象でしたが、実務上の抜け穴が塞がれ、パートタイムや別名目の契約(業務委託など)でも実態があれば対象となる点が明確化されました。
Q. 外国人駐在員はベトナムで社会保険に加入する必要がありますか?
A. 労働許可証(または免除証明)を保有し、ベトナム法人と12か月以上の雇用契約を結び、契約締結時点で定年年齢に達していない外国人は、社会保険と健康保険への加入が原則として義務付けられます。ただし失業保険は対象外です。短期駐在やコンサル契約など契約形態によって扱いが異なるため、個別判断には専門家への確認が推奨されます。
Q. 社会保険料を未納にした場合、どのようなペナルティがありますか?
A. 意図的な支払回避には5,000万〜7,500万VND(約25〜38万円)の罰金、未納の場合は未納総額の12〜15%相当の罰金と日率0.03%の延滞利息が科されます。悪質なケースでは刑事責任が問われる可能性もあります。コスト削減目的で社会保険を外す発想はリスクが高く、適正な加入・納付が必須のコンプライアンス事項とされています。
Q. 改正で年金は受け取りやすくなりましたか?
A. 任意社会保険の年金受給に必要な最低加入期間が20年から15年に短縮され、強制社会保険についても算定式が統一されました。女性は加入15年、男性は加入20年で年金率45%を起点とし、以降1年ごとに2%加算(上限75%)となります。ベトナム国内の拠出が15年未満の場合は1年あたり2.25%の補正ルールも設けられ、短期間しか加入できなかった人でも受け取りやすくなっています。
ベトナムのビジネスには展示会出展が効果的
ベトナムでは、展示会への出展が企業のマーケティング戦略において極めて重要です。現地で開催される展示会は、自社の商品・サービスを認知してもらう最適な機会であり、特にB2B企業にとって欠かせない施策の一つとされています。開催数も年々増加しており、幅広い業種で行われる展示会は、効果的な販促チャネルとして注目されています。
展示会はテストマーケティングの場としても活用でき、現地顧客の反応を直接確かめることができます。さらに、単なる商品PRにとどまらず業界関係者とのネットワークづくりにも活用できるため、新規参入企業が現地での認知度を高め人脈を広げる上でも有効です。
このような対面での商談や交流を通じて有望な新規顧客の獲得やパートナー企業の発掘にもつながるため、展示会出展はベトナムにおけるB2Bビジネスで欠かせない施策となっています。ベトナムの代表的な展示会としては、製造業向けのVIMF、物流分野のVILOG、機械加工分野のMTA Vietnam、クリーン技術のCLEANFACTなどが挙げられます。
まとめ
ベトナムの社会保険は「誰を採用するか」「いくらで雇うか」「どのような契約にするか」と密接に絡む制度であり、2025年7月の改正社会保険法と2026年の個人所得税改正により、人件費・手取り・コンプライアンスすべての面で見直しが求められています。
企業負担21.5%・従業員負担10.5%という基本構造に加え、加入対象の拡大、保険料算定基礎の見直し、年金受給要件の緩和、脱退一時金の厳格化など、改正のポイントは多岐にわたります。これらを踏まえた給与体系の再設計と総人件費の再シミュレーションは、ベトナム進出企業にとって避けて通れない実務課題です。
この記事のまとめ
- ✓ベトナムの強制保険は社会保険・健康保険・失業保険の3つで構成される
- ✓ベトナム人は企業負担21.5%・従業員負担10.5%が標準的な負担率
- ✓2025年7月の改正で1か月以上の契約者が原則強制加入対象になった点を確認する
- ✓給与体系・契約形態・コスト試算を最新法令に沿って再点検する
株式会社ビッグビートは、海外展示会出展のサポートをしています。特に、タイやベトナムに現地法人を有しており、出展企画の立案から展示ブースの設営、コンパニオンをはじめとする運営スタッフの手配や管理に至るまで、日本の高い品質基準を維持したまま、現地からの迅速なサポートを提供することが可能です。
著者:ビッグビート ASEAN推進編集部
ベトナム・タイを中心としたASEAN圏に進出、あるいはこれから進出を計画している事業会社に対し、現地でのBtoBマーケティング領域を総合的に支援する広告会社です。ASEAN圏現地での実務経験や企業支援の実績を基に、現地に根差した信頼性の高い情報発信を行っています。


