ベトナムの経済特区の概要
ベトナムの経済特区は、外資誘致と輸出振興を目的として設置された特別な経済区域です。通常の国内法とは異なる特別な経済制度や税制が適用され、企業にとって進出しやすい環境が整えられています。
経済特区の定義と目的
経済特区(Special Economic Zone)とは、国の一部地域において通常の国内法とは異なる特別な経済制度や税制を適用することで、特定の政策目標を達成しようとする区域を指します。ベトナムにおける経済特区は、北部・中部・南部の三つの行政区域に分布し、それぞれが異なる機能と目的を持ちながら国全体の経済発展を推進する原動力として機能しています。
経済特区内では法人税や関税などの優遇措置、規制緩和、外資規制の緩和などが行われています。この制度設計によって政府は外資誘致・輸出振興・雇用創出・地域開発を促進することを目的としており、企業にとって進出や投資がしやすい環境が整えられています。
経済特区設置の歴史
ベトナムの経済特区戦略は1986年に導入されたドイモイ(刷新)政策が発端となっています。ドイモイは民富や強国・民主・文明社会を掲げて発展するという理念の下、経済面では価格の自由化、国際分業型産業構造、生産性の向上などを目指すものでした。翌1987年には外国投資法が制定され、外資受け入れの法的枠組みが整備されました。
1994年には米国による経済制裁が解除され、1995年にはASEANに加盟するなど、国際経済統合が進展しました。2002年にクアンナム省チューライで最初のSEZ試験実施が検討され、現在では18の沿岸経済区、総面積54,000ヘクタールにまで拡大しています。
経済特区が果たす国内外での役割
ベトナムの経済特区は複数の輸出加工区や工業団地が特区的な役割を果たしており、税制優遇、土地賃貸の柔軟性、インフラ提供などを通じて外資企業を誘致しています。繊維・アパレル、電子部品、自動車部品などの製造業が集積し、ベトナムの輸出拡大と経済成長を支える重要な役割を担っています。
2025年上半期の外国直接投資は新規・拡張を合わせ2,814件となり、前年同期比で32.1%増加しました。認可額は182億3,629万ドルで35.2%増となっており、製造業が件数・認可額ともに1位を占めています。経済特区はグローバルサプライチェーンへの参画を促進し、ベトナムを東南アジアの製造拠点として位置づける役割を果たしています。
ベトナムの主要な経済特区の特徴
ベトナムの経済特区は北部・中部・南部の三つの地域に分かれており、それぞれの地域特性に応じた産業集積と物流網が形成されています。各地域の特徴を理解することは、外資企業が最適な進出先を選定する上で重要です。
北部の工業集積とハイフォンの強み
ベトナムの北部は政治・経済・文化・科学技術の中心であり、ハノイを中心とした北部重点経済地域が形成されています。ハノイは首都として人口の約8%にあたる825万人が集中しており、ベトナムの国内市場と中国・ラオスなどの近隣国の市場へのアクセスが可能です。
ハイフォン市はベトナムの有数の貿易港として、ベトナム北部の重要な経済都市に発展しています。ハイフォンエリアの工業団地は港湾アクセスに優れており、輸出志向型製造業にとって理想的な立地条件を備えています。
北部地域にはバクザン省やバクニン省などの工業団地も存在します。バクザン省はハノイやハイフォン港から近い好立地にあり、電子・電気部品や精密機械産業の集積地として発展しています。バクニン省もハノイとハイフォンを結ぶ産業回廊に位置し、サムスン電子をはじめとする大手企業の製造拠点が多数立地しています。
首都圏近郊の特区と物流網
ハノイ首都圏近郊には複数の工業団地が配置されており、国内市場へのアクセスと生産拠点としての機能を両立しています。ハノイは政治・行政の中心であるだけでなく、高度人材が集積する都市としても機能しており、研究開発やハイテク産業の立地にも適しています。
首都圏近郊の工業団地は国道や高速道路、鉄道などの交通網が整備されており、原材料の調達から製品の出荷まで効率的な物流が可能です。また、ノイバイ国際空港へのアクセスも良好で、航空貨物を利用する企業にとっても利便性が高い立地となっています。
中部のダナンなどの成長要因
中部のダナン市は6年連続で情報通信技術開発応用の即応能力指数で1位の都市であり、ベトナム地方競争力ランキングでも上位を維持しています。ダナン市の経済発展は複数の産業の融合によって支えられており、観光産業では550万人の観光客を誘致し、情報技術産業でも大きな売上を達成しています。
ダナンは東西経済回廊を経由して東アジア、東南アジア、インドへの輸出が可能であり、成田への直行便のアクセスも可能な戦略的な生産・販売拠点です。中部ベトナム地域とつながる立地により北部・南部市場へのアクセスが容易であり、500KV南北電線と繋がっているため電力供給も充実しています。
南部ホーチミン周辺の経済圏特徴
南部経済特区はホーチミン市を中心とした地域であり、118万人の人口を有し国際規模の海港を有することから、ベトナム南東地域の主要な物流拠点として経済的に重要な役割を果たしています。ホーチミン市はベトナムで最大規模の都市圏であり、複数の工業団地と輸出加工区が配置されています。
ビンズオン省はホーチミン市に隣接し、サイゴン港やカットライ港へのアクセスに優れた立地条件を有しています。VSIP(ベトナム・シンガポール工業団地)工業団地は両国政府が主導した国家プロジェクトで、ベトナム全土で9ヶ所で展開されており、南部地域においても重要な製造拠点として機能しています。
ベトナムの経済特区で受けられる税制優遇
ベトナムの経済特区における最大のメリットは税制上の優遇措置です。法人税の軽減や関税の免除など、外資企業にとって魅力的なインセンティブが提供されています。
法人所得税の優遇内容と適用条件
ベトナム政府は、税制優遇措置の変更や手続きの簡素化を継続的に行っています。経済特区最大のメリットは税制上の優遇措置であり、代表的な優遇策には法人税の軽減措置があります。ベトナムでは一定期間10%の特別税率が適用されます。
具体的には、FDI企業向けの法人所得税は税率を10〜15%に引き下げ、10〜15年間の優遇措置が適用されます。一部の分野では最初の4〜6年間の免税と、その後9年間の50%減税が享受できる制度があります。30年間10%の安定した税率を適用し、その後4年間は免税、さらに次の9年間は50%の減税を実施する制度が導入されています。
免税や減税の期間と実効税率への影響
経済特区における免税や減税の期間は投資分野や投資規模によって異なります。ハイテク産業や経済・社会的に困難な地域などへの進出に対しては、より長期にわたる優遇措置が適用されます。初期段階での免税期間により企業は設備投資や市場開拓に資金を集中できるため、実効税率への影響は非常に大きくなります。
優遇措置を最大限に活用することで、通常の法人税率20%と比較して大幅なコスト削減が可能となります。投資家は一定期間内に特別地域からのすべての収益を受け取ることが可能にされており、初期段階でインフラを構築するために地元の事業主に支援予算が割り当てられる仕組みもあります。
付加価値税や関税の特例
経済特区では法人税だけでなく、付加価値税や関税についても特例措置が設けられています。輸入関税が5年間無税となり、生産に必要な原材料や設備の輸入コストを大幅に削減可能です。配当や利子などに対する源泉税も免除または軽減されるケースがあり、これらの措置により外資企業の利益回収が促進されています。
国際慣行に従って取引の種類が多様化し、必要に応じて支払いを容易にするための別の金融センターを設立することが可能になっており、国の厳しい監督の下で行われています。付加価値税の免除は特に輸出志向型企業にとって大きなメリットとなり、国際競争力の向上に寄与しています。
その他の財政的インセンティブと補助金
税制優遇以外にも、経済特区では様々な財政的インセンティブと補助金が提供されています。土地使用料の減免や長期リース契約の提供、インフラ整備への支援予算などが含まれます。
経済特区内では道路、電力システム、廃棄物処理システムなど、生産施設を運営し国内外の消費者に製品をスムーズに配送するために必要な条件がすべて整えられています。例えばヴァンフォンSEZ内のすべての企業は原材料や商品などを容易に輸送できるよう道路状況が便利に設計されています。このエリアには生産および流通活動に必要な完全な給水システム、電力供給、病院、学校、観光地、人材なども備わっています。
ベトナムの経済特区進出の注意点
経済特区への進出には多くのメリットがある一方で、いくつかの注意点やリスクも存在します。労働法規制、コンプライアンス、インフラの品質、撤退時の手続きなど、事前に把握しておくべき事項があります。
労働法と人材採用の注意点
ベトナムの労働法は外資企業にも厳格に適用され、最低賃金、社会保険、労働時間、休暇などの規定を遵守する必要があります。地域によって最低賃金が異なり、都市部と地方では大きな差があるため、工業団地の立地によって人件費が変動します。
人材採用においては、技能レベルの高い労働者の確保が課題となることがあります。特に製造業においては技術者や管理職の育成が必要であり、教育訓練プログラムへの投資が求められるケースが多くあります。労働契約の締結や解雇手続きも法律に基づいて適切に行う必要があり、専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。
コンプライアンスと税務申告で押さえること
経済特区内での投資では、まず現地政府または特区管理機関への事前登録・認可が必要です。法人設立書類、事業計画書、投資額・雇用人数・年間売上等の予測を含む資料を提出し、管理当局の審査を経て認可が下ります。
投資禁止分野および条件付き投資分野は全企業に対して厳格に適用されます。環境に多大な影響を与える、またはその可能性のある案件については国会の投資方針決定が必要とされています。税務申告においても定期的な報告義務があり、外国契約者税の申告・納税についても適切な手続きが求められます。
災害リスクやインフラ整備の遅れ
ベトナムでは急速な経済発展に伴い大気環境への悪影響が増加しており、特に都市部や工業地域での大気環境が悪化しています。都市中心部のほとんどの河川、湖沼、運河や用水路で汚染物質の濃度がベトナム国家技術基準で定めた最大許容値を2〜6倍上回っている状況があります。また、粉塵公害は都市部で拡大の一途を辿っており、特にハノイ市とホーチミン市における大気環境中の粉塵レベルは世界で最も高いレベルです。
インフラ整備についても工業団地によって品質にばらつきがあります。道路や電力供給、用水システムなどの基本的なインフラが整備されている工業団地を選定することが重要であり、事前の現地視察や既存入居企業へのヒアリングが推奨されます。
撤退時の手続き
ベトナムからの撤退を検討する場合、投資登録証明書の返納や清算手続きなど、複雑なプロセスを経る必要があります。労働者への補償金の支払いや未払い税金の精算、土地使用権の返還など、法的義務を適切に履行することが求められます。撤退には通常数ヶ月から1年程度の期間を要し、専門家のサポートが不可欠です。
撤退時には債権回収や資産の処分も重要な課題となります。撤退計画は早期から準備し、法的リスクを最小化する戦略が重要です。
ベトナムのビジネスには展示会出展が効果的
ベトナムでは展示会への出展が企業のマーケティング戦略において極めて重要です。現地で開催される展示会は自社の商品・サービスを認知してもらう最適な機会であり、特にB2B企業にとって欠かせない施策の一つです。開催数も年々増加しており、幅広い業種で行われる展示会は効果的な販促チャネルとして注目されています。
展示会はテストマーケティングの場としても活用でき、現地顧客の反応を直接確かめることができます。さらに単なる商品PRにとどまらず業界関係者とのネットワークづくりにも活用できるため、新規参入企業が現地での認知度を高め人脈を広げる上でも有効です。
このような対面での商談や交流を通じて有望な新規顧客の獲得やパートナー企業の発掘にもつながるため、展示会出展はベトナムにおけるB2Bビジネスで欠かせない施策となっています。
| 展示会名 | 業種 | 特徴 |
|---|---|---|
| VIMF | 製造業全般 | ベトナム最大級の製造業展示会で工作機械や産業機器を中心に多数の出展企業が集まる |
| VILOG | 物流 | 物流・ロジスティクス分野の専門展示会で輸送機器や倉庫管理システムなどが展示される |
| MTA Vietnam | 機械・金属加工 | 工作機械や金属加工技術に特化した展示会で精密機械メーカーの出展が多い |
| CLEANFACT | 清掃・環境 | 清掃機器や環境関連技術の展示会でグリーン産業への関心の高まりを反映している |
これらの展示会に出展することで、ベトナム市場での認知度向上やビジネスパートナーの獲得が期待できます。経済特区への進出を検討している企業にとっても、現地の産業動向や競合状況を把握する貴重な機会となります。
まとめ
ベトナムの経済特区は外資誘致と輸出振興を目的とした特別な経済区域であり、法人税の大幅な減免や関税の免除など魅力的な優遇措置が提供されています。本記事では経済特区の基本的な仕組みから地域別の特性、税制優遇の詳細、進出時の注意点までを解説しました。
- ベトナムの経済特区は北部・中部・南部に分かれそれぞれの地域特性に応じた産業集積がある
- 法人税は通常20%から10~15%へ引き下げられ最大30年間の優遇措置が適用される
- 輸入関税の免除や付加価値税の特例措置により大幅なコスト削減が可能
- 労働法規制やコンプライアンス、環境問題への対応が重要な課題となる
- 展示会出展はベトナム市場での認知度向上とビジネスパートナー獲得に有効
ベトナムの経済特区への進出を検討している企業は、各地域の特性と優遇措置の内容を十分に理解した上で、最適な立地と投資戦略を選定することが重要です。現地の法律やビジネス慣行を十分に理解し、信頼できるパートナーを選定することが成功の鍵となります。
株式会社ビッグビートは海外展示会出展のサポートをしています。特にタイやベトナムに現地法人を有しており、出展企画の立案から展示ブースの設営、コンパニオンをはじめとする運営スタッフの手配や管理に至るまで、日本の高い品質基準を維持したまま現地からの迅速なサポートを提供することが可能です。ベトナム市場への進出や展示会出展をご検討の際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。




