ベトナムの将来性
ベトナム経済の将来性を理解するには、まず現状の経済規模と成長パターンを把握することが重要です。ここでは最新のGDP成長率や主要な経済指標、人口動態、労働力の質、産業構造の変化について詳しく見ていきます。
最近のGDP成長
ベトナムは1986年のドイモイ改革以降、市場経済の導入によって継続的な経済成長を実現してきました。1990年代以降のGDP成長率は、アジア通貨危機やリーマンショックといった世界的な経済危機の時期を除いて、年平均6〜9%という高い水準を維持しています。
特に2015年から2019年にかけては、ASEAN域内でトップクラスの成長率6.2〜7.08%を記録しました。新型コロナウイルスの感染拡大が世界経済に大きな打撃を与えた2020年においても、ベトナムはASEAN主要国の中で唯一プラス成長2.87%を維持し、経済の安定性を示しました。
2021年には厳しい感染対策の影響で成長率が2.55%に減速しましたが、2022年には8.54%とV字回復を達成しました。2023年は世界経済の減速影響を受けて5.07%に落ち着いたものの、2024年には輸出の回復と外国直接投資の増加、政府の経済支援策により7.1%の高成長を実現しています。
主要な経済指標
ベトナムの経済規模は着実に拡大しており、2010年には世界銀行の分類で低位中所得国に昇格しました。一人当たりGDPも順調に増加を続けており、中間層の拡大と消費市場の成長につながっています。
輸出額の推移を見ると、ベトナム経済の国際競争力の向上が明確に表れています。2023年の主要輸出品目では、コンピュータ・電子部品が573億ドル、スマートフォン・携帯部品が524億ドルと、ハイテク製品が上位を占めるようになりました。これは従来の繊維・衣類や履物といった労働集約型産業から、技術集約型産業への転換が進んでいることを示しています。
外国直接投資の流入額も高水準を維持しており、製造業を中心に世界中の企業がベトナムを重要な生産拠点として位置づけています。特に米中貿易摩擦以降、サプライチェーンの再編を進める企業からの投資が増加傾向にあります。
人口構成
ベトナムの人口は2025年時点で約1億300万人と推計され、東南アジアではインドネシア、フィリピンに次ぐ第3位の規模を誇ります。人口密度は328人/km²と高く、豊富な労働力を背景とした経済発展が可能な環境にあります。
特筆すべきは若年人口の多さです。35歳未満の人口が総人口の50%超を占めており、20〜39歳の層だけで人口の49%に達しています。この若い人口構成は、いわゆる人口ボーナス期にあることを示しており、経済成長にとって大きな追い風となっています。
人口ボーナスとは、生産年齢人口の割合が高く、経済的に従属する年少人口と高齢人口の割合が低い状態を指します。2024年時点で人口ボーナス期にある主要国は中国、インド、インドネシア、ベトナムですが、中国は2010年にピークを迎えており今後減少が見込まれる一方、ベトナムとインドネシアは今後も生産年齢人口の増加が続くと予測されています。
労働力の特徴
ベトナムの労働市場には毎年約50万人が新規参入しており、豊富な労働力供給が続いています。労働力の質という面でも改善が進んでおり、中等教育や高等教育を受けた労働者層が着実に増加しています。
工業分野やIT分野、サービス分野における教育・職業訓練の水準が国際基準に近づいており、外資系企業が求める技能を持つ人材の育成が進んでいます。政府も教育投資を強化しており、教師の給与改善や教育インフラの整備を通じて人材育成に力を入れています。
若年労働力の特性として、エネルギッシュで創造性が高く、テクノロジーへの適応力が強い点が挙げられます。プレッシャーのある環境でも力を発揮でき、新しいスキルの習得に積極的な姿勢を持つことから、急速に変化するビジネス環境に対応できる労働力として評価されています。
主要産業の現状
ベトナムの産業構造は過去15年間で大きく変化しています。実質GDPベースで見ると、第一次産業の比率は2010年の15.4%から2023年には12.0%へと低下しました。これは農業生産性の向上と都市化の進展を反映しています。
第二次産業の比率は36.0%前後から37.1%へと微増していますが、内訳を見ると製造業の比率が17.1%から22.7%へと大きく上昇しています。この変化は、外国直接投資主導で電子・半導体などの高付加価値製造業が成長したことを示しています。
第三次産業は38%台から42.5%へと拡大し、最大のセクターとなりました。サービス業の成長は都市化と中間層の拡大を背景としており、小売、飲食、金融、IT関連サービスなど多様な分野で市場が拡大しています。
ベトナムの将来性を支える成長要因
ベトナム経済の将来性は複数の構造的要因によって支えられています。外国直接投資の継続的な流入、製造業の集積、国内消費市場の拡大、そして政府主導の市場開放政策が相互に作用し、持続的な成長基盤を形成しています。
外国直接投資の増加状況
ベトナムへの外国直接投資は2007年のWTO加盟以降、本格的な流入が始まりました。1995年の米国との国交正常化、2001年の米国との二国間通商協定を経て、国際経済への統合が進んだことが投資環境の改善につながっています。
投資の内訳を見ると、製造業が中心ですが、近年は不動産開発、小売・流通、IT・デジタルサービスなど多様な分野への投資が増加しています。投資元国も日本、韓国、台湾、シンガポール、中国など幅広く、特定国への依存度が低いことがリスク分散につながっています。
米中貿易摩擦以降、中国からの生産移転を検討する企業が増加しており、ベトナムは代替生産拠点として高い注目を集めています。政治的安定性、比較的整備されたインフラ、自由貿易協定ネットワークの充実が、企業の立地選択においてベトナムの優位性を高めています。
製造業の生産拠点化の動向
ベトナムの製造業は電子・半導体分野を中心に急速に発展しています。Samsung、LG、Foxconn、Pegatron、BOE、Intelといった世界的大手企業が北部地域に大規模な生産拠点を構築しており、関連するサプライチェーンも集積が進んでいます。
2024年の電子機器輸出額は726億ドル以上に達し、総輸出額の30%以上を占めるまでに成長しました。スマートフォン、パソコン、電子部品の生産では世界有数の規模となっており、グローバルなサプライチェーンにおいて重要な位置を占めています。
製造業の高度化を支えるため、政府は2024年9月に首相決定第1018号を承認し、2030年までの半導体戦略と2050年ビジョンを打ち出しました。2030年までに半導体設計企業20社以上、製造工場1ヶ所、パッケージング・テスト施設5ヶ所の設立を目標とし、5万人の半導体エンジニアを育成する計画です。
国内消費市場の拡大見込み
ベトナムの国内消費市場は人口1億人超という規模と、中間層の拡大により急速に成長しています。一人当たりGDPの上昇に伴い、耐久消費財や嗜好品への支出が増加しており、小売市場は年々拡大を続けています。
特に都市部では若年層を中心にライフスタイルが変化しており、外食、娯楽、ファッション、美容などのサービス消費が活発です。Eコマース市場も急成長しており、スマートフォンの普及とデジタル決済の浸透により、オンラインショッピングが日常化しています。
住宅需要も旺盛で、都市部では中間層向けのマンション開発が活発です。自動車市場も拡大傾向にあり、二輪車から四輪車へのシフトが進んでいます。若い人口構成と継続的な所得向上により、今後10年以上にわたって国内消費市場の成長が見込まれます。
政策による市場開放の進展
ベトナム政府は積極的な貿易自由化政策を推進しており、多数の自由貿易協定を締結しています。ASEAN自由貿易地域に加え、日本とのEPA、EUとのEVFTA、TPP11、RCEPなど、主要経済圏との貿易協定網を構築しています。
これらの協定により関税が段階的に削減され、ベトナム製品の輸出競争力が向上するとともに、外国企業にとってもベトナムを拠点とした輸出が有利になっています。投資環境の改善も継続的に進められており、外資規制の緩和、投資手続きの簡素化、知的財産権保護の強化などが図られています。
半導体やハイテク産業に対しては、R&Dセンター設立費用の最大50%を国家予算から補助するなど、積極的な優遇政策を実施しています。ホーチミン市やダナン市も独自の決議により、半導体を戦略産業として優先的に支援する方針を打ち出しており、地方政府レベルでも産業高度化への取り組みが強化されています。
ベトナムの将来性を低下させるリスク
高い成長ポテンシャルを持つベトナムですが、将来性を阻害する可能性のある課題も存在します。インフラの制約、電力供給の不安定性、人件費の上昇、法制度の不透明性、地政学的リスクなど、複数の懸念要因を理解しておくことが重要です。
インフラの整備状況
ベトナムのインフラ整備は近年大きく進展していますが、経済成長のスピードに対してまだ十分とは言えない状況です。道路網は主要都市間の高速道路建設が進んでいるものの、地方部では未舗装道路も多く、物流効率の向上が課題となっています。
港湾施設は拡張が進んでいますが、コンテナ取扱量の増加に対応しきれず、繁忙期には混雑が発生することがあります。空港も主要都市では拡張工事が行われているものの、将来の航空需要増加を見据えたさらなる整備が必要です。
鉄道網は老朽化が進んでおり、貨物輸送の効率化や高速鉄道の導入が長期的な課題となっています。政府は日本や韓国などからのODAを活用してインフラ整備を進めていますが、投資需要に対して予算が限られているため、優先順位をつけた段階的な整備が続いています。
電力供給の制約
経済成長に伴う電力需要の増加に対して、発電能力の拡張が追いついていない状況が続いています。製造業の集積が進む地域では、特に乾季に電力不足が発生するリスクがあり、操業への影響が懸念されています。
ベトナムの電源構成は石炭火力発電の比率が高く、環境負荷の観点からも課題があります。政府は再生可能エネルギーの導入を推進していますが、太陽光発電は天候に左右されやすく、安定的な電力供給には火力発電や原子力発電などのベースロード電源が必要です。
電力供給の不安定性は製造業の投資判断に影響を与える可能性があり、特に電力を大量に消費する半導体製造などの産業にとっては重要な懸念事項となっています。送電網の整備や発電所の新設には時間がかかるため、短期的な改善は難しい状況です。
人件費の上昇
ベトナムの人件費は東南アジアの中では比較的低い水準を維持していますが、経済成長と労働市場の需給逼迫により、上昇傾向が続いています。最低賃金は毎年引き上げられており、特に都市部や工業団地では労働者の確保が課題となっています。
熟練労働者や技術者の給与は急速に上昇しており、企業にとってはコスト増加要因となっています。若年人口が豊富なため労働力不足が深刻化する状況ではありませんが、特定の技能を持つ人材については競争が激しくなっています。
人件費の上昇は、低コストを主な理由にベトナムへ進出した企業にとっては収益性への影響が避けられず、生産性向上や自動化への投資、高付加価値製品へのシフトなどの対応が求められています。
法制度の不透明性
ベトナムの法制度は市場経済化に伴い整備が進んでいますが、依然として不透明な部分が残っており、外国企業にとっては事業運営上のリスク要因となっています。法令の解釈が地域や担当者によって異なることがあり、同じ手続きでも結果が一定せず、企業側が事前に状況を読みづらいことがあります。
税制も頻繁に改正が行われ、実務上の運用が明確でないケースがあります。知的財産権の保護は法整備が進んでいますが、実効性の面では課題が残っており、模倣品対策や技術流出防止には十分な注意が必要です。
土地使用権や建設許可などの手続きにおいても、地方政府の裁量が大きく、手続きに時間がかかることがあります。現地の法制度や商習慣に精通した専門家のサポートを受けることが、法的リスクを軽減する上で重要です。
地政学的リスク
ベトナムは南シナ海における領有権問題を抱えており、周辺国との関係が経済活動に影響を与える可能性があります。特に中国との関係は経済的には密接である一方、領土問題では対立する構造があり、両国関係の変化が貿易や投資に影響を及ぼすリスクがあります。
米中対立の長期化は、ベトナムにとってはチャイナプラスワンの受け皿として有利に働く面がある一方、どちらかの陣営に明確に属することを迫られる可能性もあります。ベトナム政府は全方位外交を基本方針としていますが、国際情勢の変化によっては難しい選択を迫られる場面も想定されます。
地政学的な緊張が高まった場合、サプライチェーンの混乱や貿易制限が発生するリスクがあり、複数国に分散した生産体制の構築など、リスク管理の観点からの対応が求められます。
ベトナムの将来性を高める投資戦略
ベトナムの成長ポテンシャルを最大限に活用するためには、適切な投資戦略が不可欠です。注目すべき業種や成長分野を見極め、地域特性を理解し、現地パートナーとの関係構築とリスク管理を適切に行うことが成功の鍵となります。
注目業種
ベトナムで今後の成長が期待される業種として、まず半導体関連産業が挙げられます。政府の国家戦略により、設計から製造、パッケージング、テストまでの一貫した産業エコシステムの構築が進められています。
電子機器製造も引き続き有望です。スマートフォン、パソコン、家電製品などの組立から、電子部品の製造へと高度化が進んでおり、サプライチェーン全体での集積が進展しています。
自動車・部品産業も成長分野です。国内市場の拡大に加え、輸出拠点としての可能性も高まっています。電気自動車への移行期にあることも、新規参入のチャンスとなっています。
デジタル経済関連では、Eコマース、フィンテック、デジタルマーケティング、ITサービスなどが急成長しています。若年層のデジタルリテラシーが高く、スマートフォンの普及率も上昇しているため、デジタルサービスの浸透が急速に進んでいます。
地域別の市場特性
ベトナムは地域によって経済発展の段階や産業構造が異なります。北部のハノイ周辺は政治の中心であると同時に、ハイテク産業の集積地となっています。バクザン省やバクニン省には大規模な電子機器工場が立地しており、関連する部品メーカーの集積も進んでいます。
南部のホーチミン周辺は商業とサービス業の中心地で、消費市場として最も成熟しています。ビンズオン省は製造業の一大集積地で、日系企業も多数進出しています。物流インフラが比較的整備されており、輸出型製造業に適した環境です。
中部のダナンは観光産業と物流拠点として発展しており、製造業の新たな集積地としても注目されています。地域ごとの特性を理解し、自社の事業目的に最適な立地を選択することが重要です。
現地パートナー関係の築き方
ベトナムでのビジネス成功には、信頼できる現地パートナーとの関係構築が不可欠です。取引先の選定では、財務状況や実績、評判を慎重に確認することが重要です。現地の商工会議所や業界団体、JETROなどの公的機関を活用した情報収集も有効です。
現地スタッフの採用と育成も重要な要素です。ベトナム人は勤勉で学習意欲が高い一方、日本とは異なる文化背景や仕事の進め方を持っています。文化の違いを理解し、適切なコミュニケーションとマネジメントを行うことが定着率向上につながります。
リスク管理
ベトナムでのビジネスには様々なリスクが伴います。為替リスクについては、米ドル建て取引の活用やヘッジ手段の検討が必要です。ベトナムドンは管理変動相場制を採用しており、急激な変動は抑制されていますが、中長期的には変動リスクがあります。
法務リスクに対しては、現地の法律事務所や会計事務所との継続的な関係を構築し、法令改正や実務上の運用変更について適時に情報を得ることが重要です。契約書の作成や紛争解決の方法についても、専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。
知的財産の保護については、特許や商標の登録、従業員との秘密保持契約、技術流出防止策の実施など、多層的な対策が必要です。模倣品が発見された場合の対応手順をあらかじめ整備しておくことも重要です。
ベトナムのビジネスには展示会出展が効果的
ベトナムでは、展示会への出展が企業のマーケティング戦略において極めて重要です。現地で開催される展示会は、自社の商品・サービスを認知してもらう最適な機会であり、特にB2B企業にとって欠かせない施策の一つとされています。開催数も年々増加しており、幅広い業種で行われる展示会は、効果的な販促チャネルとして注目されています。
展示会はテストマーケティングの場としても活用でき、現地顧客の反応を直接確かめることができます。さらに、単なる商品PRにとどまらず業界関係者とのネットワークづくりにも活用できるため、新規参入企業が現地での認知度を高め人脈を広げる上でも有効です。
このような対面での商談や交流を通じて有望な新規顧客の獲得やパートナー企業の発掘にもつながるため、展示会出展はベトナムにおけるB2Bビジネスで欠かせない施策となっています。
まとめ
ベトナムは1億人超の人口と若い労働力、継続的な経済成長により、東南アジアで最も将来性の高い市場の一つです。ドイモイ改革以降の市場経済化、外国直接投資の積極的な受け入れ、製造業の高度化、半導体産業への国家戦略など、成長を支える構造的要因が揃っています。
記事では以下の点を解説しました。
- GDP成長率は年平均6~7%を維持し、2024年は7.1%を達成
- 人口ボーナス期にあり、35歳未満が総人口の50%超を占める
- 産業構造が労働集約型から技術集約型へ転換中
- 電子機器輸出が726億ドル超、総輸出の30%以上に成長
- 2030年までに半導体エンジニア5万人育成を目標とする国家戦略
- インフラや電力供給、人件費上昇などの課題も存在
- 地域別の特性を理解した投資戦略が重要
- 展示会出展がB2Bビジネスで効果的な販促手段
ベトナム市場への参入を検討している企業は、成長機会とリスクの両面を理解し、適切な戦略を立てることが成功への鍵となります。現地の商習慣や法制度を理解し、信頼できるパートナーとの関係を構築することで、ベトナムの成長ポテンシャルを自社のビジネス拡大につなげることができます。
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