ベトナムの消費動向を形づくる若年層のデジタル行動
ベトナムの消費市場は、Z世代とミレニアル世代を中心とした若年層が牽引しています。これらの世代はデジタルネイティブとして育ち、スマートフォンやSNSを日常的に活用することで独自の消費パターンを形成しています。
人口構成が消費パターンに与える影響
ベトナムの人口構成は消費動向を理解する上で極めて重要な要素です。39歳以下のZ世代とミレニアル世代が全人口の約49%を占めており、この若年層が消費市場の主要なターゲット層として企業戦略の中核を担っています。彼らは従来の世代とは異なる価値観を持ち、体験や自己表現への支出を惜しまない傾向があります。
2030年までには人口の50%以上が中間層に属すると予測されており、購買力の向上が継続的に見込まれています。2024年の平均月収は542万VND(約3万352円)で前年比9.1%増となっており、所得向上が消費拡大を後押ししています。この所得増加により、単なる生活必需品だけでなく、品質やブランド価値を重視した消費が広がっています。
スマートフォン普及が生んだモバイル主導の購買行動
スマートフォンの急速な普及はベトナムの消費動向を根本から変革しました。都市部だけでなく地方部でもスマートフォン所有率が高まり、インターネットアクセスが日常化したことで、情報収集から購買までのプロセスがモバイル中心に移行しています。
消費者はスマートフォンを通じて商品比較や価格調査を行い、レビューやSNS投稿を参考に購買決定を下すようになりました。この行動変化により、企業はモバイルファーストのマーケティング戦略を採用せざるを得なくなっています。アプリ経由のプロモーションやモバイル決済の導入は、もはや選択肢ではなく必須要件となっています。
SNSがブランド認知を高め購買行動を促す仕組み
TikTokやFacebookといったSNSプラットフォームは、ベトナムにおいて単なるコミュニケーションツールを超え、重要な販売チャネルとなっています。特にTikTok Shopは急成長しており、2024年にはLazadaを抜いてEC市場シェア2位の26.9%を獲得しました。
また、ライブコマースによる「Shoppertainment」と呼ばれる購買体験が定着し、エンターテインメント要素を含んだ販売手法が消費者の衝動買いを促進しています。インフルエンサー(KOL)や一般ユーザー(KOC)の口コミが企業広告よりも信頼される傾向があり、SNSマーケティングの重要性は年々高まっています。
キャッシュレス決済の普及状況
デジタル決済の普及はベトナムの消費動向において重要な役割を果たしています。MoMo、ZaloPay、VNPayなどの国内決済アプリが広く浸透し、現金を持ち歩かない生活が都市部を中心に一般化しています。
キャッシュレス決済の普及により、オンラインショッピングの利便性が大幅に向上し、EC市場の成長を後押ししています。決済の簡便性が購買頻度の増加につながり、少額決済でも気軽にオンライン購入できる環境が整っています。政府もデジタル経済推進の一環としてキャッシュレス化を支援しており、今後さらなる拡大が見込まれます。
都市部に比べ地方のデジタル化の遅れ
ベトナム国内では都市部と地方部のデジタル格差が依然として存在しています。ハノイやホーチミン市などの大都市ではEC利用率が高く、モダントレード(スーパー・コンビニ)が浸透していますが、地方部では伝統的市場(トラディショナルトレード)が主流です。
ただし、インフラ改善とスマートフォン普及により、地方部でも変化の兆しが見られます。エアコン保有台数は2014年の17台/100世帯から2024年には77台/100世帯へ急増しており、耐久消費財への需要が高まっています。地方部の消費者は依然として価格に敏感ですが、品質への関心も高まりつつあり、今後の成長ポテンシャルが注目されています。
ベトナムの消費動向に見られる体験価値の拡大
所得向上とライフスタイルの変化に伴い、ベトナム消費者は単なる物品購入から体験や自己投資へと支出の重心を移しています。旅行、美容、娯楽などの体験型サービスへの需要が急速に拡大しており、新たな消費トレンドを形成しています。
体験型サービスの消費拡大事例
ベトナムではサービス消費が顕著に増加しており、2024年の小売・サービス売上高は前年比9.0%増の6,391兆VND(約37兆7,069億円)と、経済成長率を上回るペースで拡大しています。その背景にあるのが、若年層を中心とした「モノの所有」から「体験や思い出」へと価値を見出す消費行動の変化です。
具体的には、カフェやレストランでの外食、映画やテーマパークといったエンターテインメント、さらにはフィットネスクラブでの自己投資などへの支出が活発化しています。イオンモールのような複合型商業施設が「アミューズメント・時間消費型施設」として人気を博しているのも、こうした体験消費トレンドを如実に反映していると言えるでしょう。
旅行関連支出の増加傾向
中間層の拡大に伴い、国内旅行および海外旅行への支出が急増しています。週末の国内リゾート地への小旅行から、アジア近隣国への海外旅行まで、旅行に対する意欲が高まっています。
訪日ベトナム人観光客数も増加傾向にあり、買い物代の傾向として菓子類や化粧品の購入が目立ちます。旅行先での体験やショッピングを通じて、グローバルブランドへの認知が高まり、帰国後もそれらのブランドをECで購入する消費行動につながっています。旅行関連市場は今後も成長が期待される分野の一つです。
美容関連の支出動向
ベトナムの美容意識は急速に高まっており、25-45歳女性の95%がスキンケア製品を日常的に使用しています。化粧品市場は特にEC販売で高い成長率を示しており、韓国コスメが強い存在感を持つ一方で、日本製の高品質スキンケアも人気を集めています。
美容関連支出は単なる外見への投資ではなく、自己肯定感や社会的評価を高める手段として認識されており、所得の上昇とともに支出額も増加しています。美容クリニックやエステサロンなどのサービスも都市部を中心に拡大しており、美容関連産業全体が成長市場となっています。
家電更新サイクルの短期化
耐久消費財の購買行動にも変化が見られます。従来は長期間使用することが一般的だった家電製品ですが、所得向上とともに買い替えサイクルが短縮化しています。新機能や省エネ性能を求めて比較的早期に買い替える消費者が増えています。
特にエアコンや洗濯機などの生活家電は、地方部でも普及が進んでおり、2024年には都市部と地方部の保有格差が縮小傾向にあります。スマート家電や時短家電への関心も高まっており、共働き世帯の増加が家電市場の成長を後押ししています。家電量販店やECプラットフォームでの販売促進キャンペーンも頻繁に行われ、購買意欲を刺激しています。
ベトナム市場を牽引するオンライン小売の成長
ベトナムのEC市場は東南アジアで最も高い成長率を誇り、2024年には約320億USDの規模に達しました。デジタル決済の普及と物流インフラの改善により、オンラインショッピングは日常的な購買手段として定着しています。
EC市場の現在の規模
ベトナムのEC市場は急速な拡大を続けており、2024年の小売EC売上高は約320億USDに達し、前年比27%増という高い成長率を記録しました。2025年には450億USD規模への拡大が予測されており、この成長ペースは東南アジア地域でもトップクラスです。
主要プラットフォームとしてはShopeeが圧倒的なシェア66.7%で首位を維持していますが、TikTok Shopが急成長しており26.9%のシェアを獲得してLazadaを抜き2位に浮上しました。LazadaとTikiはシェア縮小傾向にあり、市場競争が激化しています。EC市場の拡大は消費者の購買行動だけでなく、企業のマーケティング戦略にも大きな影響を与えています。
EC市場の成長率の推移
ベトナムのEC市場は過去5年間で年平均30%を超える成長を遂げており、2020年のコロナ禍以降さらに加速しています。スマートフォン普及率の上昇とデジタル決済の浸透が成長を牽引し、若年層を中心にオンライン購入が日常化しています。
カテゴリー別ではファッション・美容が最も人気があり、次いで家電製品、日用消費財が続きます。食品に関しては鮮度確認のためオフライン購入が好まれる傾向がありますが、加工食品や飲料はEC購入が増加しています。今後も市場拡大は継続すると見込まれており、2030年に向けてさらなる成長が期待されています。
物流インフラの現状
EC市場の成長を支える重要な要素が物流インフラの整備です。ベトナムでは国内配送ネットワークが急速に発展しており、都市部では翌日配送が標準化しつつあります。Giao Hàng Nhanh(GHN)やGiao Hàng Tiết Kiệm(GHTK)などの国内物流企業が配送サービスを提供しています。
一方で地方部への配送はまだ課題が残り、配送時間の長期化や追加料金の発生が問題となっています。道路インフラの改善が進められているものの、地方部での物流効率化には時間を要する見込みです。物流品質の向上はEC市場のさらなる成長に不可欠であり、企業は配送パートナーの選定を慎重に行う必要があります。
配送に対する消費者期待の変化
ベトナムの消費者は配送スピードと品質に対する期待を高めています。都市部の消費者は翌日配送を当然のサービスと考えるようになり、配送遅延は顧客満足度を大きく低下させる要因となっています。
また、商品の梱包状態や配送員の対応も評価対象となっており、EC事業者は配送品質の管理に注力しています。追跡サービスの提供や配送状況のリアルタイム通知も標準機能となっており、透明性の高い配送サービスが求められています。
消費動向を左右するブランド信頼の高まり
ベトナム市場ではブランドに対する信頼が購買決定において極めて重要な役割を果たしています。グローバルブランドへの憧れと国産ブランドへの愛着が共存し、消費者は価格だけでなく品質やブランドストーリーを重視する傾向が強まっています。
国産ブランドの信頼獲得事例
ベトナムの国産ブランドは品質向上とマーケティング戦略の洗練により、消費者の信頼を獲得しつつあります。特にファッション分野では、リサイクル素材を用いたローカルブランドdòng dòngなどが若年層から支持を集めています。
国産ブランドはローカルの文化や価値観を反映した製品開発により、グローバルブランドとは異なる独自のポジションを確立しています。サステナビリティへの配慮やストーリー性のあるブランディングが評価され、価格競争だけでない差別化に成功しています。
国際ブランドが取るべき戦略
国際ブランドがベトナム市場で成功するためには、単なる製品の輸入販売ではなく、現地市場への深い理解と適応が求められます。日本製品は品質への信頼が厚く、特に医薬品や化粧品、家電製品において高い評価を受けています。
しかし、価格感応度が高い市場でもあるため、プレミアム化戦略と手頃な価格帯製品のバランスが重要です。現地インフルエンサーとの協業やライブコマースの活用など、ベトナム特有のマーケティング手法を取り入れることが成功の鍵となります。また、アフターサービスや保証制度の充実も信頼獲得に不可欠です。
価格プロモーションの効果
ベトナム消費者は価格プロモーションに敏感であり、セールやクーポンが購買決定に大きく影響します。ECプラットフォームで頻繁に開催される「フラッシュセール」や「限定割引」は、消費者の衝動買いを促進する効果的な手法となっています。
ただし、過度な値引き戦略はブランド価値を損なうリスクもあります。プレミアムブランドは価格競争に巻き込まれないよう、付加価値の訴求と限定的なプロモーションのバランスを取る必要があります。新規顧客獲得のための初回割引や、ロイヤルティプログラムによるリピーター優遇など、戦略的なプロモーション設計が求められます。
レビューが購買意思決定に与える影響
オンラインレビューはベトナムの消費者にとって最も信頼される情報源の一つです。企業広告よりも実際の購入者の声を重視する傾向があり、レビュー評価が高い商品は売上が大きく伸びる傾向があります。
星評価だけでなく、写真付きレビューや詳細なコメントが購買決定に影響を与えます。ネガティブレビューへの適切な対応も重要であり、企業の誠実さが評価されます。インフルエンサーや一般ユーザー(KOC)による口コミマーケティングが効果的であり、信頼性の高い第三者評価の獲得が市場成功の鍵となります。
ベトナムのビジネスには展示会出展が効果的
ベトナムでは、展示会への出展が企業のマーケティング戦略において極めて重要です。現地で開催される展示会は、自社の商品・サービスを認知してもらう最適な機会であり、特にB2B企業にとって欠かせない施策の一つとされています。開催数も年々増加しており、幅広い業種で行われる展示会は、効果的な販促チャネルとして注目されています。
展示会はテストマーケティングの場としても活用でき、現地顧客の反応を直接確かめることができます。さらに、単なる商品PRにとどまらず業界関係者とのネットワークづくりにも活用できるため、新規参入企業が現地での認知度を高め人脈を広げる上でも有効です。
このような対面での商談や交流を通じて有望な新規顧客の獲得やパートナー企業の発掘にもつながるため、展示会出展はベトナムにおけるB2Bビジネスで欠かせない施策となっています。
まとめ
ベトナムの消費動向は若年層のデジタル消費主導により急速に変化しており、EC市場の拡大と体験型サービスへの支出増加が顕著です。中間層の拡大と所得向上により、今後さらなる市場成長が見込まれます。
- Z世代・ミレニアル世代が消費市場の中核を担い、デジタル購買行動が主流化している
- EC市場は年率27%で成長し、2025年には450億USD規模に達する見込み
- 体験型サービスや美容、旅行への支出が増加し、消費の質的転換が進行中
- ブランド信頼とレビュー評価が購買決定に大きな影響を与えている
- 都市部と地方部で消費パターンに差があり、地域別戦略が必要
ベトナム市場への参入を検討する企業は、デジタルマーケティング戦略の強化とともに、現地での認知度向上が不可欠です。展示会出展は効果的な手段であり、直接顧客と接点を持つことで市場理解を深めることができます。
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