タイは東南アジアの製造拠点として長年にわたり日本企業の進出先に選ばれてきました。2026年現在もその流れは続いており、IT・サービス業を含む幅広い業種で新規参入が活発化しています。一方で、タイでの会社設立には外資規制や独自の登記制度など、日本国内とは異なるルールへの理解が欠かせません。
本記事では、タイで会社設立を検討する方に向けて、進出形態の選び方から具体的な手続きの流れ、費用の目安、そして2026年に施行された新制度の影響までを網羅的に解説します。初めての海外進出でも全体像をつかめるよう、実務に即した情報を整理しました。
この記事でわかること
- タイの進出形態(現地法人・支店・駐在員事務所)の違いと選び方
- 会社設立の手順を商号予約からビザ取得まで5ステップで解説
- 資本金・登記費用・人件費など設立にかかるコストの全体像
- 2026年施行の新制度やBOI奨励など外資規制の適法な回避ルート
タイでの進出形態は目的に合わせて決める
タイに進出する際、最初に検討すべきは「どの形態で拠点を置くか」という点です。形態ごとに許可される事業活動や本社が負うリスクが異なるため、自社の目的を明確にしたうえで判断する必要があります。
現地法人の特徴と向いている事業
タイで最も一般的な進出形態が「現地法人(有限会社)」です。タイ国内で独立した法人格を持ち、営業活動に制限がありません。本社の責任は出資額の範囲に限定されるため、リスクを切り分けられるメリットがあります。
製造業、小売業、飲食業、ITサービスなど、タイ国内で売上を立てて収益化を目指す事業であれば、現地法人の設立が最適な選択肢です。2026年現在は、市場調査フェーズを省略して直接現地法人を設立するケースも増えています。
ただし、タイの外国人事業法により、外資比率が50%を超える場合は規制業種での事業が制限されます。そのため、出資比率の設計や後述するBOI奨励の活用が重要になります。
支店の特徴と向いている事業
支店は日本の本社の一部としてタイ国内に設置する拠点です。独立した法人格を持たず、営業活動は可能ですが一部制限があります。本社が支店の債務を直接負う点が現地法人との大きな違いです。
大規模なインフラプロジェクトや政府調達案件など、期間が限定されたプロジェクト型の事業に適した形態といえます。建設業やエンジニアリング企業が特定の工事案件のために支店を設置するケースが代表的です。
支店の設立には外国人事業許可(FBL)の取得が求められる場合が多く、手続きの複雑さから選択する企業は現地法人と比較すると少数にとどまります。
駐在員事務所と地域統括会社の違い
駐在員事務所は市場調査や広報、品質管理などの非営業活動を目的として設置する拠点です。売上を立てたり請求書を発行したりする行為は一切認められていません。進出の第一歩として活用されてきましたが、近年は事業スピードを重視して最初から現地法人を設立する企業が増えています。
一方、地域統括会社(IHQ/ITC)は複数の東南アジア拠点を統括する目的で設立されるもので、税制上の優遇措置を受けられる場合があります。駐在員事務所は「調査のための拠点」、地域統括会社は「東南アジア全体を管理するための拠点」と位置づけが大きく異なります。
自社が求める機能に応じて、これらの形態を正しく使い分けることが進出成功の出発点です。
進出形態の選び方と意思決定のポイント
進出形態の選択にあたっては、以下の比較表を参考に自社の事業目的を照らし合わせてみてください。
| 比較項目 | 現地法人(有限会社) | 支店 | 駐在員事務所 |
|---|---|---|---|
| 法人格 | あり(タイ国内で独立) | なし(本社の一部) | なし(拠点のみ) |
| 営業活動 | 可能(制限なし) | 可能(一部制限あり) | 不可(売上請求禁止) |
| 本社の責任範囲 | 出資額の範囲に限定 | 本社が直接負う | 本社が直接負う |
| 主な用途 | 本格展開・収益化 | 特殊プロジェクト | 市場調査・広報 |
「タイ国内で売上を上げるかどうか」が最も重要な判断基準であり、収益化を目指すなら現地法人一択といっても過言ではありません。支店や駐在員事務所は特殊なケースに限られるため、一般的な企業が最初に検討すべきは現地法人の設立です。
タイで会社設立する手順は段階ごとに進める
タイでの会社設立は、大きく5つのステップに分けて進めます。2026年1月からはオンライン登記が完全義務化されており、手続きの流れも従来とは変わっています。各段階で必要な書類や期限を正確に把握しておくことが重要です。
商号予約と定款(MOA)の準備
会社設立の最初のステップは商号(社名)の予約です。2026年からはタイ商務省の「DBD Biz Regist」システムを通じてオンラインで申請します。予約は30日間有効で、既存の法人名と類似していないか審査されます。
商号が確定したら、基本定款(Memorandum of Association)を作成します。定款には会社名、所在地、事業目的、資本金額、発起人の情報などを記載します。2026年の法改正により発起人は最低2名から設立可能となり、以前の3名要件から緩和されました。
定款作成にあたっては、事業目的の記載範囲が将来の事業展開に影響するため、コンサルタントや弁護士と相談のうえ広めに設定しておくことをおすすめします。
設立総会と取締役・株主の登録
基本定款の登記が完了したら、次は設立総会(法定会議)を開催します。この総会では取締役の選任、監査人の任命、株式の割当てなどを決議します。監査人にはタイ人の公認会計士を選任する必要があり、日本人が務めることはできません。
取締役については、タイ人取締役が必須という法的要件はありません。ただし、実務上は銀行口座の開設やビザ手続きの際にタイ人取締役がいると手続きがスムーズに進む傾向があります。
株主構成は外資規制に直結する重要事項であり、タイ人出資者には過去3ヶ月分の銀行明細の提出が義務づけられています。この資金証明制度は2026年に導入されたもので、名義貸しの排除を目的としています。
会社登記と必要書類の提出
設立総会の開催後、3ヶ月以内に最終登記を完了させなければなりません。登記手続きは「DBD Biz Regist」を通じてオンラインで行い、紙ベースの申請は原則受け付けられない点に注意が必要です。
提出が必要な主な書類は以下のとおりです。
- 登記申請書(オンラインフォーム)
- 基本定款および設立総会議事録
- 取締役全員のパスポートコピーと署名証明
- オフィスの賃貸契約書および地図
- タイ人出資者の銀行明細(過去3ヶ月分)
- デジタルIDおよび電子署名
デジタルIDの取得と電子署名の準備は、登記手続きの前に済ませておく必要があります。特に日本在住の発起人や取締役がいる場合は、日本側での準備に時間がかかるため余裕を持ったスケジュールを組んでください。
税務登録と社会保険の手続き
会社登記が完了したら、歳入局(Revenue Department)で税務登録を行います。年商が180万バーツを超える見込みの場合は、VAT(付加価値税)の登録も必要です。法人税の申告は半期ごとに行い、年度末に確定申告を提出します。
従業員を雇用する場合は社会保険事務所への届出も欠かせません。2026年から2028年にかけて、社会保険料の算定基礎となる上限賃金が17,500バーツに引き上げられました。
| 手続き | 届出先 | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 法人税登録 | 歳入局 | 登記後60日以内 |
| VAT登録 | 歳入局 | 売上見込み確定後30日以内 |
| 社会保険届出 | 社会保険事務所 | 従業員雇用後30日以内 |
税務登録を怠ると罰金や追徴課税のリスクがあるため、登記完了後は速やかに手続きを進めてください。
ビザ取得と労働許可の流れ
タイで日本人が就労するには、ノンイミグラントBビザ(就労ビザ)とワークパーミット(労働許可証)の両方が必要です。ビザは在日タイ大使館または入国後にタイ国内で切り替えて取得し、ワークパーミットは労働省に申請します。
ワークパーミットの取得にはいくつかの条件があります。最も重要なのは資本金要件で、外国人従業員1名につき原則200万バーツ以上の登録資本金が求められます。また、タイ人従業員4名に対して外国人1名という雇用比率の基準もあります。
日本人駐在員が2名必要な場合は最低400万バーツの資本金を確保しなければならず、資本金額は人員計画と連動して決める必要があります。BOI奨励企業であればこの比率要件が緩和されるケースもあるため、事前にBOI申請の可否を検討しておくと有利です。
タイでの会社設立にかかる費用と注意点を把握する
タイで会社設立を成功させるには、初期費用だけでなく運営コストの全体像を事前に把握しておくことが重要です。2026年は社会保険料や最低賃金の引き上げ、輸入品の免税枠廃止など、コストに直結する制度変更が相次いでいます。
資本金の目安と外国人出資の規制
タイの会社法では最低資本金に関する明確な下限は定められていません。しかし実務上は、ワークパーミットの取得要件として外国人1名あたり200万バーツ以上の資本金が必要です。日本人が2名駐在する計画であれば、最低でも400万バーツを想定してください。
資本金の払込は登記時点で最低25%で認められますが、500万バーツを超える場合は銀行の残高証明が求められます。外資比率が50%を超える企業は外国人事業法の規制対象となり、規制業種での事業にはFBL(外国人事業許可)の取得が不可欠です。
規制業種には小売業、サービス業、建設業など広範な業種が含まれるため、自社の事業がどのカテゴリに該当するか事前確認を怠らないようにしましょう。
登記費用と公証費用の内訳
タイでの会社設立にかかる登記関連の費用は、資本金の額によって変動します。主な費目と目安金額を以下にまとめました。
| 費目 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 基本定款登記費用 | 500〜5,000バーツ | 資本金額に応じて変動 |
| 会社登記費用 | 5,000〜25,000バーツ | 資本金額に応じて変動 |
| コンサルタント報酬 | 50,000〜150,000バーツ | 設立代行を依頼する場合 |
| 公証・翻訳費用 | 10,000〜30,000バーツ | 日本語書類の翻訳含む |
登記費用そのものは大きな金額ではありませんが、コンサルタントや弁護士への報酬を含めると合計で20万〜50万バーツ程度を見込んでおくのが現実的です。特に2026年のオンライン登記義務化に対応するための電子署名取得費用も考慮してください。
オフィス賃料と初期の運転資金の試算
バンコク中心部のオフィス賃料は、立地やグレードによって大きく異なります。日系企業が多く入居するスクンビットやシーロムエリアでは、30〜50平方メートルの小規模オフィスで月額20,000〜50,000バーツが相場です。サービスオフィスを活用すれば、内装費や通信設備費を抑えられるメリットがあります。
会社設立から事業が軌道に乗るまでの期間を考慮し、最低でも6ヶ月分の運転資金を確保しておくことを推奨します。銀行口座の開設審査が厳格化しており、利用開始までに1〜2ヶ月を要するケースが増えている点も資金計画に織り込んでおくべきです。
登記住所として利用できるオフィスの条件(広さや用途地域の制限)もあるため、物件選定は登記手続きと並行して早めに進めてください。
人件費と社会保険のコスト感
タイの人件費は東南アジア諸国の中では比較的高い水準にあります。2025年7月に改定されたバンコク都の最低賃金は日額400バーツで、2026年もこの水準が維持されています。月額に換算すると約10,400バーツとなり、これに各種手当や社会保険料が加わります。
社会保険料は労使折半で、2026年から2028年にかけての算定基礎上限賃金は17,500バーツです。労使それぞれ最大875バーツの負担となります。
- 一般事務職の月給相場は15,000〜25,000バーツ
- 日本語が話せるスタッフは30,000〜50,000バーツ
- マネージャークラスは50,000〜100,000バーツ
- BOI企業の外国人専門職は月額75,000バーツ以上が基準
タイでは13ヶ月目の賞与(ボーナス)の支給が一般的な慣行であり、年間の人件費計算には13ヶ月分を見込む必要があります。優秀な人材の確保競争は年々激化しているため、給与水準だけでなく福利厚生の充実も検討していくべきでしょう。
よくあるリスクと実務上の対策
タイでの会社設立において最も深刻なリスクが「名義貸し」の問題です。外資規制を回避するために、実態のないタイ人名義で株式を保有させる手法は以前から横行していました。しかし、2026年4月の法改正により、名義貸しはマネーロンダリングの「前提犯罪」に位置づけられ、罰則が大幅に強化されています。
名義貸しが発覚した場合、禁錮刑や罰金に加えて個人資産の没収、投資資産の国庫没収が科される可能性があり、事業継続が不可能になるリスクを伴います。「安く済むから」と安易にノミニーを利用する判断は、取り返しのつかない事態を招きかねません。
実務上の対策としては、以下の3点を徹底することが重要です。
- タイ人出資者の資金証明(銀行明細3ヶ月分)の整合性を事前に確認する
- 合弁パートナーとの契約内容を弁護士にレビューしてもらう
- BOIやJTEPAなど適法なルートで外資規制をクリアする方法を優先的に検討する
BOIや税制優遇の活用方法
外資規制を適法に回避しつつ、税制面でも恩恵を受けられる代表的な手段がBOI(タイ投資委員会)の投資奨励制度です。BOI奨励を受けた企業は、外資100%での事業運営が認められるだけでなく、法人税の免除や機械設備の輸入関税免除といった優遇を享受できます。
BOI奨励の対象となる主な業種は以下のとおりです。
- 製造業(自動車部品、電子機器、食品加工など)
- IT・デジタル関連サービス
- 高度技術サービス(R&D、エンジニアリングなど)
- 環境・省エネルギー関連事業
また、JTEPA(日タイ経済連携協定)を活用すれば、特定のサービス業において外国人事業許可の取得を通じた進出が可能になります。BOIとJTEPAのどちらを活用すべきかは事業内容によって異なるため、進出計画の初期段階で専門家に相談して最適なルートを選定することが成功への近道です。
なお、2026年からは従来1,500バーツ以下の輸入貨物に適用されていた関税・VAT免除が撤廃され、1バーツから課税対象となりました。海外から原材料や部品を調達する事業モデルでは、このコスト増を事業計画に反映させる必要があります。
よくある質問
Q. タイで会社設立にかかる期間はどのくらいですか
A. 一般的な現地法人の設立であれば、商号予約から会社登記完了まで約1〜2ヶ月が目安です。ただし、2026年からは銀行口座の開設審査が厳格化しており、口座が利用可能になるまでさらに1〜2ヶ月を見込む必要があります。BOI申請を同時に進める場合は、奨励状の発行に追加で2〜3ヶ月かかることもあるため、全体で4〜6ヶ月の計画を立てるのが現実的です。
Q. 外国人1人でもタイで会社を設立できますか
A. 法律上、2026年からは発起人が最低2名いれば会社を設立できます。ただし、外資規制により外国人の出資比率が50%を超える場合は規制業種での事業にFBL(外国人事業許可)やBOI奨励が必要です。タイ人パートナーなしで100%外資の会社を設立するなら、BOI奨励の取得が最も現実的な手段となります。
Q. タイの会社設立で名義貸しを使うとどうなりますか
A. 2026年4月の法改正により、名義貸しはマネーロンダリングの前提犯罪に位置づけられました。発覚した場合は禁錮刑や罰金だけでなく、個人資産や投資資産の没収が科される可能性があります。タイ人出資者の銀行明細による資金証明も義務化されているため、実態のない名義貸しは審査段階で発覚するリスクが高まっています。
まとめ
タイでの会社設立は、進出形態の選定から登記手続き、税務・労務の対応まで多くのステップを着実にこなす必要があります。2026年にはオンライン登記の完全義務化やノミニー規制の強化など、大きな制度変更が施行されました。これらの変化を正しく理解し、適法な手段で事業を進めることが、タイ進出を成功させるための土台となります。
費用面では、資本金のほかに登記費用、オフィス賃料、人件費、社会保険料など多岐にわたるコストを事前に試算し、十分な運転資金を確保しておくことが重要です。外資規制についてはBOIやJTEPAといった適法ルートを最大限に活用し、安易な名義貸しに頼らない体制を構築してください。
この記事のまとめ
- ✓タイで収益化を目指すなら現地法人(有限会社)の設立が最適
- ✓2026年からオンライン登記が義務化され、デジタルIDと電子署名が必須に
- ✓BOIやJTEPAなど適法な手段で外資規制をクリアし、名義貸しは絶対に避ける
- ✓進出計画の初期段階から専門家に相談し、スケジュールと費用の見通しを立てる
株式会社ビッグビートは、海外展示会出展のサポートをしています。特に、タイに現地法人を有しており、出展企画の立案から展示ブースの設営、コンパニオンをはじめとする運営スタッフの手配や管理に至るまで、日本の高い品質基準を維持したまま、現地からの迅速なサポートを提供することが可能です。
参考URL
- Digima〜出島〜|タイで会社設立する方法と進出ポイント
- Bangken|タイ進出・会社設立コラム
- Money Forward Bizpedia|会社設立・M&A基礎知識
- JETRO|タイの外資規制・投資制度
- 長島・大野・常松法律事務所|アジアニュースレター(タイ関連)
- Kuno CPA|【2026年最新版】タイ会社設立・現地法人設立ガイド
- バンコク週報|タイ最新ニュース(会社・経済関連)
- GDM Asia|タイ名義貸し規制強化と2026年最新動向
- バンコク週報|タイ最新ニュース(外資規制関連)
- Digima〜出島〜|タイ進出のメリット・市場魅力
- TKAO|タイ進出・会社設立コラム
- Kuno CPA|BOI就労許可制度の新規制
- ThaiBiz.jp|タイビジネス情報記事
- One Asia Lawyers|タイ会社法・進出法務コラム
- Global SCM|タイ進出・物流ビジネス解説
- JETRO|タイ関連ビジネスニュース(2026年1月)
- Global SCM|タイサプライチェーン関連コラム
- JETRO|タイ関連ビジネスニュース(2025年12月)
- Zero Asia|タイ労務・雇用制度情報
- JGA Asia|タイ進出・会社設立情報
- Bangken|タイニュース(2025年12月)
- Day0 Bangkok|タイの収入・生活費事情
- ASIA to JAPAN|タイ給与水準・採用市場
著者:ビッグビート ASEAN推進編集部
ベトナム・タイを中心としたASEAN圏に進出、あるいはこれから進出を計画している事業会社に対し、現地でのBtoBマーケティング領域を総合的に支援する広告会社です。ASEAN圏現地での実務経験や企業支援の実績を基に、現地に根差した信頼性の高い情報発信を行っています。





