ベトナムにおける企業法の基本的な考え方
ベトナム企業法は、国内で事業を行うすべての企業に適用される基本法令であり、会社の設立から解散まで幅広い局面を規定しています。この法律は2020年に改正され、企業活動の透明性向上とビジネス環境の改善を目的に、多くの条項が見直されました。
企業法の目的
ベトナム企業法の主な目的は、企業活動の法的基盤を整備し、投資家や債権者の権利を保護することにあります。同時に、企業の自主性を尊重しながら市場経済の発展を促進する役割も担っています。法令では企業の権利と義務が明確に定義されており、事業運営における透明性と公正性が強く求められます。特に外資企業にとっては、ベトナム国内での事業活動に関する基本ルールを理解する上で最も重要な法律です。
適用範囲の定義
企業法は、ベトナムで設立されたすべての企業形態に適用されます。具体的には有限責任会社、株式会社、パートナーシップ企業、個人企業が対象となります。外国企業がベトナムで設立する現地法人も企業法の適用を受けるため、日本企業の子会社や合弁会社も例外ではありません。ただし、駐在員事務所や支店など、法人格を持たない組織については別途投資法などの規定が適用されます。企業形態によって適用される条項が異なるため、設立前に自社に適した形態を検討することが重要です。
主要用語の解説
企業法を理解するためには、いくつかの主要な用語を押さえておく必要があります。たとえば、会社設立時に計画投資局から発行される「企業登録証明書」は、日本の登記簿謄本に相当する公式文書です。また、株主構成や経営組織、意思決定手続きなど会社の基本規則をまとめた「定款」は、企業運営の根幹を定める重要な資料です。さらに、会社を代表して法律行為を行う権限を持つ「法定代表者」は、通常、社長や取締役会長が務めます。こうした用語は実務上頻繁に登場するため、それぞれの役割や位置づけを正確に理解しておくことが欠かせません。
最近の改正ポイント
2020年の企業法改正では、企業設立手続きの簡素化と電子化が大きなテーマとなりました。オンラインでの企業登録申請が可能になり、処理期間も短縮されています。また、取締役会の運営に関する規定が明確化され、企業統治の透明性が向上しました。資本金の払込要件も柔軟化され、段階的な出資が認められるようになっています。さらに、外国人投資家の権利保護に関する条項が強化され、国際基準に近づく内容となっています。改正により外資企業にとってベトナムでの事業展開がより容易になった一方、コンプライアンス要件も厳格化されている点に注意が必要です。
企業法に基づく会社設立手続き
ベトナムで会社を設立する際は、企業法に定められた手続きに従って進める必要があります。会社形態の選択から登録完了まで、複数のステップを踏むことになります。
会社形態の選択基準
ベトナム企業法では、主に有限責任会社と株式会社の2つの形態が外資企業によく選ばれています。有限責任会社は1名または2名以上の社員で構成され、出資額の範囲内で責任を負います。小規模から中規模の事業に適しており、経営の柔軟性が高いのが特徴です。一方、株式会社は3名以上の株主が必要で、株式の発行による資金調達が可能です。将来的な上場や大規模な資金調達を視野に入れる場合は株式会社が適していますが、管理コストは高くなります。100%外資の場合、多くは有限責任会社を選択する傾向にあります。
設立の具体的なステップ
会社設立の手続きは、投資登録証明書と企業登録証明書の取得という二つの段階を踏んで進みます。まずは事業計画書や定款案を準備し、管轄の計画投資局へ投資登録を申請します。審査を通過して投資登録証明書が発行されると、続いて同じ計画投資局に企業登録申請を提出する流れです。申請から登録が完了するまでの期間は、業種や地域によって前後するものの、一般的には1~2ヶ月程度を要します。企業登録が完了した後は、税務や社会保険の登録、銀行口座の開設といった付随手続きを順次進め、これらが整って初めて正式に事業を開始できます。
資本金規制
ベトナムでは、多くの業種で最低資本金の規定はありませんが、業種によっては法定資本金が設定されています。建設業、旅行業、人材派遣業などは最低資本金要件があり、事前に確認が必要です。また、投資規模によって承認レベルが異なり、大規模プロジェクトでは中央政府の承認が必要になる場合があります。資本金は原則としてベトナムドンで設定しますが、外貨建て資本も認められています。実際の事業規模に見合った適切な資本金を設定することが、銀行融資や取引先との信頼構築において重要です。
出資手続き
出資手続きは、登録資本金の実際の払込プロセスを指します。2020年の改正により、会社設立時に全額を払い込む必要はなく、設立後90日以内に初回出資を行えば良いとされています。残りの資本金は定款で定めた期限内に段階的に払い込むことが可能です。出資方法は現金だけでなく、機械設備や知的財産権などの現物出資も認められています。現物出資の場合は独立した評価機関による価値評価が必要となり、手続きが複雑になる点に注意が必要です。出資証明は銀行の入金証明書や資産評価報告書で行います。
登録機関の役割
企業登録を管轄する計画投資局は各省・市レベルに設置されており、会社の本店所在地を所管する局が申請窓口となります。同局は投資登録と企業登録を一元的に扱う機関として、提出書類の審査から証明書の発行まで一連の手続きを担当します。ホーチミン市やハノイ市といった主要都市ではオンライン申請システムも整備され、電子署名を使った申請が広く利用されています。また、登録完了後も定款変更や役員変更などの重要事項は引き続き計画投資局への届出が求められるため、企業は同局と継続的にやり取りを行うことになります。こうした手続きを円滑に進めるためには、窓口担当者とのコミュニケーションを適切に保つことも重要です。
外国企業の企業法上の扱い
外国企業がベトナムで事業を展開する際、その形態によって企業法上の扱いや規制内容が異なります。駐在員事務所、合弁会社、100%外資企業のそれぞれに特徴があります。
駐在員事務所の設立基準
駐在員事務所は、市場調査や連絡業務を目的とした拠点で、営利活動は認められていません。設立には親会社の登記簿謄本、定款、財務諸表などの書類を準備し、計画投資局に申請します。駐在員事務所設置許可証の有効期間は5年で、更新が可能です。営業活動や契約締結ができないため、本格的な事業展開には現地法人の設立が必要になります。ただし、市場参入前の準備段階では低コストで拠点を構えられるメリットがあります。
合弁会社の特徴
合弁会社は、外国企業とベトナム企業が共同で設立する事業形態であり、ベトナム側パートナーの現地知識やネットワークを活用できる点が大きな強みです。一方で、経営方針の調整や利益配分をめぐって意見の相違が生じることもあり、慎重な運営が求められます。また、出資比率には業種ごとに外資規制が設けられており、小売業や教育分野などでは外資比率に上限が設定される場合があります。こうした点を踏まえ、合弁契約では意思決定の手順や紛争対応を事前に明確化しておくことが重要であり、その実効性を確保するために契約書は英語版とベトナム語版の双方で作成されます。
100%外資企業の特徴
100%外資企業は、外国企業が単独で出資する現地法人で、経営の自由度が高いのが最大の特徴です。意思決定が迅速に行え、日本本社の方針を直接反映できます。近年のベトナムでは外資規制の緩和が進み、製造業やサービス業の多くの分野で100%外資での設立が可能になっています。ただし、一部の業種では依然として外資規制があるため、事前に投資法や関連法令での制限事項を確認することが不可欠です。また、現地人材の雇用や技術移転に関する要件が課される場合もあります。
投資許可の取得手順
外資企業が投資許可を取得する際は、まず事業内容を詳述した投資申請書を提出するところから手続きが始まります。申請を受けた計画投資局は内容を精査し、必要に応じて関連省庁との協議を行います。製造業の案件であれば、環境影響評価や建設計画、土地使用権といった要素も審査の対象となります。こうした審査を経て発行される投資登録証明書には、事業内容、投資総額、実施スケジュールなどの主要事項が記載され、企業にとって事業活動の法的な基盤となります。なお、投資計画に重要な変更が生じた場合には証明書の修正申請が必要となり、承認までの期間は通常15営業日ほどですが、案件の内容によっては数ヶ月に及ぶこともあります。
企業法に関するコンプライアンスの実務
会社設立後は、企業法に基づく各種コンプライアンス要件を継続的に遵守する必要があります。会計、税務、労務の各分野で正確な対応が求められます。
会計基準の要点
ベトナムでは、ベトナム会計基準またはベトナム会計システムに従った会計処理が義務付けられています。国際財務報告基準との違いがあるため、日本の会計基準に慣れた担当者は注意が必要です。会計帳簿はベトナム語で作成し、原則として10年間保管しなければなりません。勘定科目の分類や減価償却方法など、ベトナム特有のルールがあるため、現地の会計事務所と連携することが推奨されます。特に、棚卸資産の評価方法や固定資産の分類は実務上重要なポイントです。
財務報告の要件
企業は年次財務諸表を作成し、株主総会での承認後に税務当局と統計総局に提出する義務があります。財務諸表には貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、注記が含まれます。一定規模以上の企業は監査を受ける必要があり、監査報告書も提出書類に含まれます。提出期限は決算日から90日以内で、遅延すると罰金が科されるため、事前にスケジュールを組んで準備を進めることが重要です。四半期報告は義務ではありませんが、親会社への報告のために作成する企業が多くあります。
税務申告の基本
ベトナムでは法人所得税・付加価値税・個人所得税など複数の税目があり、それぞれに申告期限と納付期限が設けられています。法人所得税は年次申告に加えて四半期ごとの暫定申告が求められ、付加価値税は月次または四半期での申告が必要になります。その際には仕入税額控除の仕組みを正確に把握しておくことが欠かせません。現在は電子申告システムが広く導入されており、オンラインでの申告・納税が一般的ですが、システム上のトラブルに備えて余裕をもって手続きを進めることが重要です。また、移転価格税制にも留意が必要で、関連会社間取引がある場合には文書化義務が発生します。
雇用契約の必須項目
労働法では、従業員との雇用契約を必ず書面で締結し、労働条件を明確に示すことが求められています。契約書には、職務内容や勤務時間、給与、社会保険、契約期間などの基本事項を記載する必要があります。また、ベトナムでは試用期間の設定や契約更新に関する規定が細かく定められており、これらを遵守しないと労働紛争につながるおそれがあります。とりわけ契約期間の管理は重要で、無期限契約への移行時期を誤ると企業側に不利な条件が生じる可能性があります。さらに、就業規則の作成と従業員への周知も企業の義務とされており、外国人を雇用する場合には労働許可証の取得が必要で、職種や資格要件が厳格に審査されます。
違反時の罰則
企業法や関連法令に違反した場合、警告から罰金、最悪の場合は営業停止や投資許可の取消しまで、段階的な罰則が科されます。会計帳簿の不備や税務申告の遅延は比較的軽い罰金で済むことが多いですが、重大な脱税や労働法違反は厳しく処罰されます。近年は税務当局や労働局の監査が強化されており、コンプライアンス体制の整備が企業の持続的成長に不可欠となっています。定期的な内部監査と専門家によるレビューを実施し、問題を早期に発見して是正することが重要です。万が一違反を指摘された場合は、速やかに対応し、再発防止策を講じる姿勢が評価されます。
ベトナムのビジネスには展示会出展が効果的
ベトナムでは、展示会への出展が企業のマーケティング戦略において極めて重要です。現地で開催される展示会は、自社の商品・サービスを認知してもらう最適な機会であり、特にB2B企業にとって欠かせない施策の一つとされています。開催数も年々増加しており、幅広い業種で行われる展示会は、効果的な販促チャネルとして注目されています。
展示会はテストマーケティングの場としても活用でき、現地顧客の反応を直接確かめることができます。さらに、単なる商品PRにとどまらず業界関係者とのネットワークづくりにも活用できるため、新規参入企業が現地での認知度を高め人脈を広げる上でも有効です。
このような対面での商談や交流を通じて有望な新規顧客の獲得やパートナー企業の発掘にもつながるため、展示会出展はベトナムにおけるB2Bビジネスで欠かせない施策となっています。
まとめ
ベトナム企業法は、会社設立から日常運営まで、現地でビジネスを展開する上で最も基本となる法律です。企業法の目的や適用範囲を理解し、適切な会社形態を選択することが成功への第一歩となります。
- 企業法は会社設立から運営まで幅広く規定する基本法令
- 2020年の改正で手続きの簡素化と電子化が進展
- 会社形態は事業規模や将来計画に応じて選択する
- 外資企業は投資許可と企業登録の二段階手続きが必要
- 会計・税務・労務のコンプライアンスを継続的に遵守
- 違反には段階的な罰則があり内部管理体制の整備が重要
ベトナムで事業を成功させるには、企業法を含む現地法令への理解とコンプライアンス体制の構築が不可欠です。専門家のサポートを受けながら、計画的に準備を進めることをお勧めします。
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