Home 9 ブログ 9 ベトナム関税の基礎知識|輸入品目別の税率とFTA活用のポイントを解説
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ベトナムの関税制度の全体像

ベトナムの関税制度は、2016年に施行された輸出入税法を基盤としています。この法律により、商品の輸出入に対する課税の枠組みが整備され、国際的な通商慣行に基づいた透明性の高い制度が構築されました。

ベトナムの関税は品目ごとに課される

ベトナムの関税は、HSコードと呼ばれる国際統一商品分類コードに基づいて品目ごとに設定されています。HSコードは8桁の数字で構成され、商品の種類や材質、用途によって細かく分類されています。このコード体系により、世界中で統一された基準で商品が分類され、関税率の適用が明確になります。

各品目に対する関税率は、ベトナム政府が定期的に更新する関税率表に記載されています。関税の課税標準は、輸入品の場合はCIF価格(運賃保険料込み価格)、輸出品の場合はFOB価格(本船渡し価格)が基準となります。このため、輸送コストや保険料も含めた総額に対して関税が計算される点に注意が必要です。

一般税率と優遇税率の違い

ベトナムの輸入関税には、標準関税率、優遇関税率(MFN税率)、特別優遇関税率の3つの区分が存在します。標準関税率は、優遇協定を締結していない国からの輸入品に適用される最も高い税率です。この税率は、ベトナムの国内産業を保護する目的で設定されており、一般的には他の税率よりも大幅に高くなっています。

優遇関税率は、WTO加盟国など最恵国待遇を受ける国からの輸入品に適用されます。日本を含む多くの先進国はこの区分に該当し、標準関税率よりも低い税率が適用されます。

特別優遇関税率は、FTAやEPAなどの経済連携協定に基づいて適用される最も優遇的な税率です。日本からの輸入品は、日越経済連携協定やCPTPPなどの協定を活用することで、大幅な関税削減が可能となります。

税関手続きの基本的な流れ

ベトナムの税関手続きは、近年のデジタル化により大きく改善されています。VNACCS(ベトナム電子通関システム)の導入により、電子申告が標準となり、手続きの透明性と迅速性が向上しました。

輸入者は、貨物到着前に必要書類を準備し、電子システムを通じて申告を行います。通関申告が受理されると、税関は申告内容をリスク評価システムで審査します。審査結果に応じて、検査不要で即時通関可能、書類審査が必要、現物検査が必要などのカテゴリに分けられます。

関税の支払いは、申告後に税関から発行される納税通知に基づいて行います。支払い完了後、税関が貨物の引き取り許可を発行し、輸入者は貨物を受け取ることが可能です。全体のプロセスは、書類が整っていれば数日で完了しますが、検査が入る場合は1週間以上かかることもあります。

ベトナムの輸入品目別の関税率一覧

ベトナムの輸入関税率は品目によって大きく異なります。国内産業の保護、外国投資の誘致、消費者保護など、複数の政策目的に基づいて税率が設定されています。

一般消費財の関税目安

衣料品に対する関税は、輸入元や製品の種類によって10%から20%の範囲で設定されています。ASEAN域内からの輸入品には優遇税率が適用される一方、ASEAN域外からの輸入品には高い税率が課されます。特に高級ブランドの衣料品には、高い税率が適用される傾向があります。

履物については15%から25%の関税が課されており、衣料品よりもやや高い水準となっています。スポーツシューズや革靴など、製品の種類によっても税率が異なります。

家電製品の関税率は製品の種類によって幅があり、一般的には10%から15%程度です。テレビや冷蔵庫などの大型家電は比較的低い税率が適用される一方、小型の娯楽製品には高めの税率が設定されています

工業製品・機械類の関税目安

産業機械や製造設備に対する関税は、ベトナムの製造業発展を支援する観点から、比較的低く設定されています。一般的には0%から15%の範囲で、特に先端技術を用いた機械設備については優遇措置が適用されることが多くなっています。

電子機器・電子部品についても、比較的低い関税率が適用されています。スマートフォン部品、半導体、電子回路基板などは、5%から10%の税率が一般的です。2025年の関税改正では、一部の電子機器の税率が10%から5%に引き下げられました。

自動車および自動車部品の関税は、製品の種類によって10%から50%と幅広い設定となっています。完成車には高い税率が適用される一方、製造用部品には比較的低い税率が設定されるのが特徴です。ベトナム政府は国内自動車産業の育成を目指しており、段階的な関税引き下げが検討されています。

食品・農産物の関税目安

農産物に対する関税は、食料安全保障の観点から比較的高く設定されています。新鮮な果物や野菜には10%から30%の関税が課されており、国内農業の保護が図られています。ただし、日越経済連携協定により、日本からの特定の農産物については段階的な関税削減が実施されています。

肉類および肉製品には15%から25%の関税が適用されます。牛肉、豚肉、鶏肉など、種類によって税率が異なり、加工度の高い製品ほど高い税率となる傾向があります。

加工食品の関税率は製品の種類によって大きく異なり、5%から30%の範囲です。菓子類や調味料などの一般的な加工食品は10%から15%程度ですが、アルコール飲料やタバコには高い税率と追加の物品税が課されます

注意すべき特定の品目

一部の品目については、関税以外にも特別な規制や追加の税金が課される場合があります。例えば、医薬品や化粧品は、関税に加えて保健省の許可が必要であり、輸入手続きが複雑化します。

環境関連製品や再生可能エネルギー関連機器については、政府の環境政策に基づいて優遇措置が適用されることがあります。太陽光パネルや風力発電設備などは、低い関税率や免税措置の対象となる場合があり、投資奨励策の一環として位置づけられています。

中古品の輸入については、新品とは異なる規制が適用されます。特に中古の機械設備や自動車は、輸入が制限されているケースがあり、事前に税関への確認が必要です。

FTAを使ったベトナム向け輸出の関税削減方法

ベトナムは17のFTAを締結しており、協定を活用することで大幅な関税削減が可能です。日越経済連携協定、CPTPP、RCEPの3つの協定を適切に活用することで、貿易コストを大きく削減し、競争力を高めることができます。

利用できる主要FTAの概要

日越経済連携協定は2009年に発効したベトナム初の二国間EPAであり、日本からの輸出品の多くが優遇税率の対象となっています。現在では多くの工業製品が関税ゼロまたは極めて低い税率で輸入可能です。

CPTPPは2019年1月にベトナムで発効した多国間協定で、日本を含む11カ国が参加しています。この協定により、ベトナムは品目ベースで65.8%の関税を即時撤廃し、段階的に97.8%まで拡大することが決定されています。

RCEPは2022年1月に発効した東アジア・東南アジア地域の広域FTAで、日本、中国、韓国、ASEAN10カ国が参加しています。この協定の特徴は、累積規定により複数国からの原材料を組み合わせた製品でも優遇税率が適用される点です。サプライチェーンが複雑化している現代において、極めて有用な制度設計となっています。

優遇適用の要点

FTAによる優遇税率の適用を受けるためには、原産地規則を満たす必要があります。原産地規則とは、どの国で生産された製品かを判定するための基準であり、各FTAによって異なる規定が設けられています。主な基準には、完全生産品、関税分類変更基準、付加価値基準、特定加工工程基準があります。

完全生産品とは、単一国で採取・収穫・製造された産品を指します。農産物や鉱物資源などが該当しますが、工業製品では該当するケースは限られます。関税分類変更基準は、原材料のHSコードと最終製品のHSコードが異なることを要件とする基準です。

付加価値基準は、輸出国での付加価値が一定割合以上であることを求める基準です。例えば、日越EPAでは40%以上の付加価値が求められる品目があります。企業は自社製品がどの基準に該当するかを事前に確認し、必要に応じて生産工程や調達先を見直すことが重要です。

原産地証明書類の取得と保存の実務

FTAの優遇税率を適用するためには、原産地証明書の取得が必須です。日越EPAの場合、輸出者は日本商工会議所または各地の商工会議所に申請し、原産地証明書の発行を受けます。

企業は原産地証明書に関連する書類を一定期間保管する義務があります。契約書、インボイス、製造記録、原材料の購入証憑などは、税関監査の際に提示を求められることがあります。書類管理が不十分な場合、優遇税率の適用が取り消され、遡及的に追徴課税される可能性があるため注意が必要です。

ベトナムのFTA利用で注意する関税リスク

FTAによる優遇税率の適用は大きなメリットをもたらしますが、適切な管理を怠ると重大なリスクにつながります。リスクを理解し、適切な対策を講じることが重要です。

原産地証明の不備や虚偽によるリスク

原産地証明に関する最大のリスクは、虚偽申告や不正確な情報提供です。意図的な虚偽はもちろん、誤認や書類不備による誤った申告も、重大な問題を引き起こします。ベトナム税関は、疑義のある申告に対して厳格な調査を実施し、不正が判明した場合は優遇税率の適用を取り消します。

優遇税率が取り消されると、正規の税率との差額を遡及的に支払う必要があります。これに加えて、延滞税や罰金が課される場合もあり、企業の財務に大きな影響を与えます。

原産地証明の不備を防ぐためには、社内での厳格な管理体制の構築が不可欠です。製造工程の記録、原材料の調達先情報、付加価値の計算根拠などを正確に把握し、書類として整備しておくことが重要です。

税関監査で指摘されやすいポイント

ベトナム税関が実施する監査では、いくつかの典型的な指摘事項があります。まず、HSコードの分類誤りが頻繁に指摘されます。製品の材質、用途、構造などの解釈によって、適用されるHSコードが異なる場合があり、企業側の分類と税関の判断が一致しないケースが発生します。

原産地基準の適用に関する誤りも多く見られます。特に、付加価値基準を用いる場合、計算方法や含めるべきコストの範囲について解釈の相違が生じやすくなっています。

取引価格の妥当性も監査の焦点となります。関連会社間取引において、市場価格と大きく乖離した価格設定がある場合、税関は移転価格操作による関税回避を疑います。適正な価格設定と、その根拠を示す書類の準備が求められる場合があります。

内部統制と取引先管理でリスク低減

FTA利用に伴うリスクを低減するためには、社内での内部統制の整備が重要です。まず、FTA利用に関する社内規程を策定し、責任者と担当者の役割を明確にしましょう。原産地証明書の申請プロセス、書類の保管方法、定期的な見直し手順などを文書化し、全社で共有します。

取引先管理も重要な要素です。原材料や部品を調達する取引先に対して、原産地情報の提供を求め、定期的に確認を行います。特に、複数国から調達する場合や、取引先が再輸出品を扱う場合は、原産地の追跡が複雑になるため、綿密な管理が必要です。外部の専門家によるコンサルティングや研修の活用も検討すべきです。

是正措置と紛争解決の手順

税関から指摘を受けた場合、速やかに対応することが重要です。まず、指摘内容を正確に理解し、どの点が問題視されているのかを確認します。誤解や解釈の相違がある場合は、根拠資料を提示して説明を行います。

指摘が正当である場合は、速やかに是正措置を講じましょう。誤った申告を修正し、不足していた関税を納付します。また、同様の誤りが他の取引でも発生していないかを社内で調査し、必要に応じて自主的な修正申告を行うことが望ましいです。

税関の判断に納得できない場合は、不服申し立ての手続きを利用できます。ただし、紛争解決には時間とコストがかかるため、事前の予防措置が最も効果的なリスク管理といえます。

ベトナムのビジネスには展示会出展が効果的

ベトナムでは、展示会への出展が企業のマーケティング戦略において極めて重要です。現地で開催される展示会は、自社の商品・サービスを認知してもらう最適な機会であり、特にB2B企業にとって欠かせない施策の一つとされています。開催数も年々増加しており、幅広い業種で行われる展示会は、効果的な販促チャネルとして注目されています。

展示会はテストマーケティングの場としても活用でき、現地顧客の反応を直接確かめることができます。さらに、単なる商品PRにとどまらず業界関係者とのネットワークづくりにも活用できるため、新規参入企業が現地での認知度を高め人脈を広げる上でも有効です。

このような対面での商談や交流を通じて有望な新規顧客の獲得やパートナー企業の発掘にもつながるため、展示会出展はベトナムにおけるB2Bビジネスで欠かせない施策となっています。

まとめ

ベトナムの関税制度は、HSコードに基づく品目別の課税体系と、複数のFTAによる優遇税率が組み合わさった複雑な構造を持っています。本記事では、関税制度の基本から品目別の税率、FTA活用による関税削減、リスク管理まで幅広く解説しました。

  • ベトナムの輸入関税には標準税率、優遇税率、特別優遇税率の3区分があり、FTA活用で大幅な削減が可能
  • 品目ごとの関税率は幅広く、農産物は10~30%、工業製品は0~15%、衣料品は10~20%が目安
  • 日越EPA、CPTPP、RCEPなどの協定を活用することで、多くの品目で関税ゼロまたは大幅な削減を実現できる
  • FTA利用には原産地証明書の取得が必須であり、原産地規則を満たす必要がある
  • HSコードの分類誤りや原産地証明の不備は、追徴課税や罰金のリスクがあるため、厳格な管理体制が重要
  • 税関監査に備えて、製造記録や原材料調達情報を正確に保管し、定期的な内部監査を実施すべき

ベトナムとの貿易を成功させるためには、関税制度の正確な理解とFTAの戦略的活用が不可欠です。最新の法令改正や税率変更に常に注意を払い、専門家のアドバイスを受けながら適切な対応を行うことが、競争力の維持と向上につながります。

株式会社ビッグビートは、海外展示会出展のサポートをしています。特に、タイやベトナムに現地法人を有しており、出展企画の立案から展示ブースの設営、コンパニオンをはじめとする運営スタッフの手配や管理に至るまで、日本の高い品質基準を維持したまま、現地からの迅速なサポートを提供することが可能です。ベトナム市場への参入や展示会出展をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。

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