ベトナム労働法の基本原則
ベトナムの労働法は、国内で働くすべての労働者と使用者に適用されます。2019年に全面改正された労働法は、労働市場の変化に対応し労使双方の権利義務を明確化しました。
法の適用範囲と対象
ベトナム労働法は、ベトナム国内で労働契約を締結して働くすべての労働者に適用されます。これには、ベトナム人労働者だけでなく外国人労働者も含まれます。使用者側も同様に、個人事業主から大企業まで事業規模にかかわらず法の適用対象です。
外資系企業がベトナムで事業を行う場合、現地法人や支店の形態にかかわらず労働法の遵守が義務付けられます。そのため、進出前の段階から法令理解と社内体制の整備が不可欠です。
主要法令と最新の改正ポイント
ベトナムの労働法制の中核をなすのは、2019年労働法です。この法律は2021年1月1日に施行され、それ以前の労働法を全面的に置き換えました。主な改正ポイントには、契約形態の簡素化や労働時間規定の柔軟化、外国人労働者に関する規定の整備などが含まれます。
労働法に加えて、政府令や省令などの下位法令も重要です。下位法令は頻繁に更新されるため、最新の情報を常にチェックすることが重要です。
2024年7月には最低賃金の改定が施行され、全地域で約6パーセントの引き上げが実施されました。このような法改正や政令の更新は、人件費計画や労務管理に直接影響するため、タイムリーな情報収集と対応が求められます。
労働者の基本的権利
ベトナム労働法は、労働者に対して多様な権利を保障している法律です。代表的なものとして、労働契約の締結権、適正な賃金を受け取る権利、安全衛生が確保された労働環境で働く権利、休憩休暇を取得する権利などが挙げられます。
労働者は労働組合を結成する権利も有しています。ベトナムでは企業レベルの労働組合が広く設置されており、労働条件の交渉や労働者の権利擁護において重要な役割を果たしているのです。使用者は労働組合の活動を妨害してはならず、組合員であることを理由に不利益な取り扱いをすることは禁じられています。
女性労働者や未成年労働者については特別な保護規定が設けられており、妊娠出産に関する休暇や夜間労働の制限などが法律で明記されています。これらの権利を侵害した場合、使用者は罰則の対象となります。
使用者の義務と責任
使用者には、労働契約の適切な履行、賃金の期日内支払い、労働安全衛生の確保、社会保険への加入など多岐にわたる義務が課されています。これらの義務を怠ると、行政処分や罰金の対象となるだけでなく、労働紛争に発展するリスクもあります。
労働法では、使用者が10名以上の労働者を雇用する場合には内部労働規則を作成し、所轄の労働当局に登録することが義務付けられています。内部労働規則には就業時間、休憩時間、賃金支払い方法、懲戒処分の種類と手続きなどを明記する必要があります。この登録を怠ると罰則の対象となるため、企業設立後の初期段階で確実に対応しておくことが重要です。
ベトナムの労働法における雇用契約
雇用契約は労使関係の基礎となる重要な文書です。ベトナムでは契約の種類や記載事項が法律で詳細に定められており、適切な契約締結が労務管理の第一歩となります。
雇用契約の種類と特徴
ベトナムの労働法では、雇用契約は大きく分けて無期契約と有期契約の2種類が認められています。無期契約は期限の定めがない契約で、安定した雇用関係を前提としています。一方、有期契約は契約期間が定められており、最長で36か月まで締結可能です。
有期契約は原則として1回のみ更新が認められており、2回目の更新時には自動的に無期契約に転換されます。この更新ルールを把握しておかないと、意図せず無期契約に移行してしまい、雇用管理上の柔軟性が失われる可能性があるため注意が必要です。実務では、契約更新のタイミングと回数を正確に記録し、管理することが求められます。
契約書に記載すべき必須項目
労働契約書には法律で定められた必須記載事項があります。具体的には、労働者の氏名と住所、使用者の名称と住所、職務内容、勤務地、労働時間、休憩時間、賃金とその支払い方法、契約期間などが含まれます。
賃金の記載においては、基本給だけでなく諸手当の内容と金額も明確にする必要があります。また、試用期間を設ける場合はその期間と条件も契約書に記載しなければなりません。契約書の記載内容が不十分だと、後に労働紛争が発生した際に使用者側が不利になるリスクがあります。
2019年労働法では電子契約も認められるようになり、デジタル署名を用いた契約締結が可能です。ただし、電子契約を採用する場合でも記載すべき項目は紙の契約書と同じであり、法的効力を持つためには適切な手続きが必要です。
試用期間の取り扱いと留意点
試用期間は労働者の能力や適性を評価するために設けられる期間です。ベトナム労働法では、職務の種類に応じて試用期間の上限が定められています。管理職や高度な専門知識を要する職務の場合は最長180日、短大卒以上の学歴が必要な職務では60日、その他の職務では30日が上限です。
試用期間中の賃金は本採用時の賃金の少なくとも85パーセント以上でなければなりません。試用期間終了後に本採用とするか否かを判断しますが、試用結果が不合格の場合は事前通知なしに契約を終了することができます。ただし、試用不合格の判断は客観的かつ合理的な基準に基づく必要があり、恣意的な判断は紛争の原因となります。
契約終了と解雇手続き
労働契約の終了には、契約期間満了、双方の合意、労働者の一方的終了、使用者による解雇などの形態があります。契約期間満了による終了の場合、特別な手続きは不要ですが、有期契約の更新回数には注意が必要です。
使用者が労働者を解雇する場合、法律で定められた正当な理由と手続きが求められます。正当な理由には、労働者の重大な規律違反、業務遂行能力の欠如、経営上の理由などがあります。解雇の際には書面による通知と事前の協議が必要であり、手続きを誤ると不当解雇として訴えられるリスクがあるため注意が必要です。
労働法では解雇手当の支払いも規定されています。使用者は勤続年数に応じて月給の0.5か月分を解雇手当として支払う義務があり、ただし失業保険に加入していた期間は控除されます。
ベトナムの労働法における賃金と労働時間
賃金と労働時間は労働条件の中核をなす要素です。ベトナムでは地域別の最低賃金制度や残業規制が細かく定められており、適切な運用が求められます。
最低賃金と賃金構成の基本
ベトナムでは地域ごとに最低賃金が定められており、2024年7月1日から新しい最低賃金が施行されています。地域は経済発展度に応じて4つに区分されており、地域Iが最も高く地域IVが最も低い設定です。
以下に2024年7月時点の地域別最低賃金を示します。
| 地域 | 月額最低賃金 | 時間給 |
|---|---|---|
| 地域I | 4,960,000 VND | 23,800 VND |
| 地域II | 4,410,000 VND | 21,200 VND |
| 地域III | 3,860,000 VND | 18,500 VND |
| 地域IV | 3,450,000 VND | 16,600 VND |
地域Iにはハノイやホーチミン市などの主要都市が含まれ、地域IVは農村部や経済発展が遅れている地域が該当します。企業は事業所の所在地に応じた最低賃金を遵守しなければならず、違反した場合は罰金や行政処分の対象となります。
賃金構成は基本給と各種手当から成り立ちます。基本給は労働者の職務や能力に応じて設定され、通勤手当や住宅手当、職務手当などが加算されます。訓練を受けた労働者に対しては、最低賃金の7パーセント以上の上乗せが推奨されています。
労働時間の上限と休憩休暇
ベトナムの労働法では、通常の労働時間は1日8時間、週48時間を上限としています。これは法定労働時間として厳格に定められており、使用者はこの範囲内で労働時間を設定する必要があります。
休憩時間については、労働時間が一定以上の場合に付与が義務付けられています。通常勤務の場合は最低30分、夜勤の場合は45分の休憩が必要です。これらの休憩時間は労働時間に算入されるため、休憩中も賃金支払いの対象となります。この点は日本の制度とは異なるため、注意が必要です。
週休制度では、労働者は週に少なくとも1日の休日を取得する権利があります。多くの企業では土曜日と日曜日を休日としていますが、業種によっては異なる曜日を休日とすることも可能です。休日に労働させる場合は、事前の同意と割増賃金の支払いが必要です。
残業の扱いと割増賃金
残業は法定労働時間を超えて労働させることを指し、労働者の同意が前提となります。ベトナム労働法では残業時間に厳しい上限が設けられており、原則として年間200時間を超えてはなりません。ただし、特定の業種や緊急時には年間300時間まで認められる場合があります。
年間300時間の残業を認める場合、使用者は省労働当局に事前の書面通知を行う必要があります。また、1日あたりの残業時間も制限されており、通常労働時間と残業時間を合わせて1日12時間、1か月で40時間を超えないようにする運用が求められます。
残業に対する割増賃金の支払いも義務付けられています。平日の残業は通常賃金の150パーセント、休日労働は200パーセント、祝日労働は300パーセントの割増率が適用されます。割増賃金の計算ミスや未払いは労働紛争の主要な原因となるため、給与計算システムの整備と定期的なチェックが欠かせません。
年次有給休暇と特別休暇の規定
労働者は勤続1年ごとに年次有給休暇を取得する権利があります。標準的な職務の場合、年間12日の有給休暇が付与されます。有害業務や重労働の場合は14日から16日に増加し、18歳未満の労働者にも追加の休暇が認められています。
特別休暇としては、結婚休暇や忌引休暇、出産休暇などが法律で定められています。女性労働者には産前産後合わせて6か月の出産休暇が保障されており、この期間中は社会保険から給付が支払われます。これらの特別休暇は有給であり、労働者から申請があった場合は使用者は拒否できません。
ベトナムの労働法での外国人労働者対応
外国人がベトナムで就労する場合、特別な手続きと許可が必要です。近年の法改正により手続きが一部簡素化されましたが、依然として複雑な部分が残っています。
就労許可とビザの要件
外国人がベトナムで労働するには、原則として労働許可証を取得する必要があります。労働許可証の取得には、雇用主からの申請と必要書類の提出が求められます。
労働許可証の取得には、外国人労働者が一定の資格や経験を有していることを証明する書類が必要です。具体的には、学歴証明書、職歴証明書、無犯罪証明書、健康診断書などが求められます。これらの書類は出身国で取得し、適切な認証を受ける必要があり、手続きには数か月を要するため、準備は余裕を持って進めましょう。
一定の要件を満たす外国人労働者は労働許可証が免除される場合があります。たとえば、企業の役員や特定の専門職、短期滞在者などが該当します。ただし免除対象者であっても、労働許可証免除証明書を取得する必要があるケースがあるため、事前に確認が重要です。
外国人雇用時の特別規定
使用者が外国人労働者を雇用する際には、事前に外国人労働者の雇用計画を作成し、所轄の労働当局に報告する義務があります。この計画には雇用する外国人の人数、職務内容、雇用期間などを記載します。
外国人労働者を雇用する前には、国内労働市場での求人手続きを行うことが原則として求められます。つまり、同等の能力を持つベトナム人労働者が見つからない場合に限り、外国人を雇用できるという仕組みです。
外国人労働者の割合にも制限があります。企業全体の労働者数に対する外国人労働者の割合は原則として3パーセント以内とされていますが、特定の業種や職種では例外が認められる場合があります。外国人労働者の雇用計画や割合管理を適切に行わないと、労働許可証の取得が困難になるだけでなく、罰則の対象となるケースもあるため、注意が必要です。
社会保険と税務の取り扱い
外国人労働者もベトナムの社会保険制度の適用対象となる場合があります。労働許可証を保有し1年以上の労働契約を締結している外国人労働者は、社会保険への加入が義務付けられています。社会保険には、年金保険、疾病保険、労災保険などが含まれます。拠出率は使用者と労働者でそれぞれ負担割合が定められており、給与から控除される形で納付されます。
税務面では、外国人労働者もベトナム国内で得た所得に対して個人所得税を納付する義務を有しています。税率は所得額に応じた累進課税となっており、使用者は給与支払い時に源泉徴収を行う必要があります。社会保険と税務の手続きは複雑であり、専門家のアドバイスを受けることが推奨されています。
健康保険についても外国人労働者は加入対象となり、ベトナム国内の医療機関で治療を受ける際に保険が適用されます。失業保険に関しては、外国人労働者の適用範囲や条件が別途規定されているため、個別に確認が必要です。
違反時の罰則と是正措置
外国人労働者の雇用に関する規定に違反した場合、使用者には罰金や行政処分が科されます。たとえば、労働許可証なしで外国人を雇用した場合、高額な罰金が課されるだけでなく、当該外国人労働者の強制退去処分につながる可能性もあります。
労働許可証の有効期限が切れたまま就労させた場合も同様に違反となります。労働許可証の有効期間は最長2年であり、期限が切れる前に更新手続きを行う必要があります。更新を怠ると労働者が就労できなくなるだけでなく、使用者も罰則の対象です。
違反が発覚した場合、労働当局から是正命令が出されます。是正命令に従わない場合は、さらに重い処分が科される可能性があります。外国人労働者の雇用管理においては、労働許可証の有効期限管理や社会保険の加入状況を定期的にチェックし、法令遵守を徹底することが不可欠です。
ベトナムのビジネスには展示会出展が効果的
ベトナムでは、展示会への出展が企業のマーケティング戦略において極めて重要です。現地で開催される展示会は、自社の商品・サービスを認知してもらう最適な機会であり、特にB2B企業にとって欠かせない施策の一つとされています。開催数も年々増加しており、幅広い業種で行われる展示会は、効果的な販促チャネルとして注目されています。
展示会はテストマーケティングの場としても活用でき、現地顧客の反応を直接確かめることができます。さらに、単なる商品PRにとどまらず業界関係者とのネットワークづくりにも活用できるため、新規参入企業が現地での認知度を高め人脈を広げる上でも有効です。
このような対面での商談や交流を通じて有望な新規顧客の獲得やパートナー企業の発掘にもつながるため、展示会出展はベトナムにおけるB2Bビジネスで欠かせない施策となっています。
まとめ
本記事では、ベトナムの労働法について雇用契約や労働時間、賃金、外国人労働者対応など実務上重要なポイントを解説しました。ベトナムで事業を展開する企業にとって、労働法の正確な理解と適切な運用は必須です。
- ベトナム労働法は2019年に全面改正され、契約形態や残業規制が明確化されてる
- 雇用契約は無期と有期があり、有期契約の更新回数には注意が必要
- 残業時間は原則年間200時間以内であり、特定業種で300時間まで可能
- 外国人労働者の雇用には労働許可証の取得と社会保険への加入が必要
- 就業規則の登録や懲戒手続きの適正化が労働紛争の予防につながる
労働法の運用においては、法令の最新動向を常に把握し社内体制を整備することが重要です。不明点がある場合は現地の専門家に相談しながら、適切な労務管理を実現しましょう。また、ベトナム市場への進出やビジネス拡大においては、展示会の活用も効果的な手段の一つです。
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