Home 9 ブログ 9 ベトナムのIT拠点は本当に有利?メリット・リスクを比較解説
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国内のIT人材不足と開発コスト高騰に直面する日本企業にとって、ベトナムはオフショア開発先として特に注目される市場となっています。オフショア開発白書2024年版によると、ベトナムは42%の企業から選ばれ4年連続で1位を維持しています。しかし、実際にベトナムIT拠点を活用する際には、コストメリットだけでなく品質管理やコミュニケーション課題といったリスクも存在します。本記事では、データに基づいた客観的な視点からベトナムIT拠点の優位性と注意点を詳しく解説し、効果的な活用のために役立つ実践的な情報を紹介します。

急成長するベトナムIT市場

ベトナムのIT市場は、東南アジアの中でも特に高い成長率を示しています。2024年時点でITアウトソーシング市場は70億ドルに達し、ソフトウェア開発市場は30億ドル規模まで拡大しています。

成長を牽引する需要と産業構造

ベトナムのIT産業は、国内外の需要拡大を受けて急速に成長しています。国内では政府主導のデジタルトランスフォーメーション推進により、行政サービスのデジタル化や電子商取引の普及が加速しています。

産業構造の面では、オフショア開発サービスが全体の約60%を占めており、日本企業向けの開発案件がその中核を担っています。残りの40%は国内向けのシステム開発やITコンサルティングサービスで構成されています。特にフィンテック、ヘルステック、EdTechといった先端分野での需要の伸びが顕著です。

IT人材は現在48万人に達しており、今後も拡大が見込まれています。年間5万人以上のIT系卒業生が輩出される人材供給体制が、この成長を支える重要な要素となっています。

VIMF

政府のデジタル化政策と投資動向

ベトナム政府は2025年までにデジタル経済がGDPの20%を占めることを目標に掲げ、積極的な支援策を展開しています。国家デジタル変革プログラムでは、教育から産業インフラまで幅広い分野への投資が進められています。

教育分野では2017年から小学3年生で外国語とコンピュータが必修化され、中学校ではソフトウェアコーディングが導入されました。政府主導のSTEM教育推進により、若年層の技術基盤が着実に強化されています。また、大学や短大の多くにIT学部が設置され、産学連携による実践的な人材育成が行われています。

インフラ投資の面では、5Gネットワークの整備やデータセンターの拡充が進行中です。外資系IT企業の誘致にも力を入れており、税制優遇措置やビザ手続きの簡素化などの施策が実施されています。

主要都市と産業クラスターの特徴

ベトナムのIT産業は、ハノイとホーチミンの二大都市を中心に発展してきました。ハノイには政府機関向けのシステム開発企業が集積し、行政や金融分野に強みを持つ企業が多く立地しています。一方、ホーチミンは商業都市の特性を活かし、EC関連やモバイルアプリ開発に強い企業が集まっています。

近年では、ダナン、フエ、カントーなど地方都市へのIT拠点分散も進んでいます。地方都市は人件費が二大都市より10〜20%低いため、コスト重視の開発拠点として有力な選択肢になるためです。

製造業との連携が強い地域もあります。バクザン省やバク二ン省は北部の製造業集積地として知られ、工場のIoT化やスマートファクトリー関連のIT需要が高まっています。南部のビンズオン省も同様に製造業との連携が進んでおり、産業用システム開発の拠点として発展していくでしょう。

ベトナムIT人材の特徴

ベトナムIT人材の最大の特徴は、若さと上昇志向の高さです。平均年齢は30歳前後で、就職理由として会社の成長性を挙げる人が43.5%、技術的挑戦を重視する人が52.9%に達しています。

教育体制と人材育成の現状

ベトナムの教育体制は、国際競争力のある技術者を育成することに重点を置いています。

大学レベルでは、ハノイ工科大学やホーチミン市工科大学などの名門校が、世界水準のカリキュラムを提供しています。これらの大学では英語での授業が行われ、グローバル企業との共同研究プロジェクトも活発に実施されています。卒業生の多くは国際的な技術標準や開発手法に精通しており、即戦力として活躍可能です。

短期集中型のプログラミングブートキャンプや専門スクールが数多く存在し、社会人の再教育やスキルアップを支援しています。これらの施設では、最新のフレームワークやクラウド技術など、実務で即座に活用できる技術を教えています。

言語能力とコミュニケーションの実情

日本企業との協業において、言語能力は重要な要素となります。ベトナムでは日本語学習者が約6万人おり、IT業界では日本語能力試験N3以上の人材が多数活躍しているため安心です。特に大手オフショア開発企業では、社内に日本語教育プログラムを設けているケースも見られます。

英語については、若い世代ほど流暢に話せる傾向があります。大学卒業者の約70%がビジネスレベルの英語力を持っており、技術文書の読解や国際チームでのコミュニケーションに支障はありません。

ただし、コミュニケーション面での課題も存在します。日本特有の「阿吽の呼吸」や「よしなに」といった曖昧な指示は伝わりにくく、明確な仕様書と具体的な指示が必要です。また、報告・連絡・相談の文化が日本ほど浸透していないため、プロジェクト管理体制の構築が重要になります。

人件費とコスト構造の比較

ベトナムIT人材の人件費は、日本と比較して大幅に低いことが特徴です。人月単価はプログラマーが約40万円、システムエンジニアが約45万円、プロジェクトマネージャーが約65万円となっています。ブリッジSEの場合は約50万円が相場です。

これは日本国内でエンジニアを雇用する場合の3分の1から2分の1程度のコストに相当します。中国と比較しても30〜35%程度安価であり、コスト競争力の高さは明確です。インドの一部地域ではさらに低単価のケースもありますが、品質面でのリスクが指摘されています。

近年は年率10〜15%のペースで給与が上昇しているものの、総合的なコスト構造を見ると、日本国内での開発に比べ40〜50%のコスト削減が可能です。開発規模が大きいほど、このコストメリットは顕著になります。

クラウドやAI、モバイルへの強み

ベトナムのIT産業は、最新技術への対応力に優れています。クラウドコンピューティング、AI・機械学習、モバイルアプリ開発といった分野で、高い技術力を持つ企業や人材が数多く存在します。

得意とする技術領域と産業応用

ベトナムIT企業が特に強みを発揮するのは、Webアプリケーション開発とモバイルアプリ開発です。ECサイトや業務システムの構築実績が豊富で、レスポンシブデザインやUX設計にも精通しています。

AI・機械学習の分野では、画像認識、自然言語処理、予測分析などの技術を活用したシステム開発が増えています。RAG(検索拡張生成)などの最新AI技術を用いたアプリケーション開発でも、ベトナムIT人材の活用が進んでいます。スタートアップ企業を中心に、チャットボット、レコメンデーションエンジン、異常検知システムなど多くの開発実績があります。

クラウド分野では、AWSやAzureなど主要クラウドプラットフォームを活用したシステム構築や運用が強みです。オンプレミスからクラウドへの移行や、業務システム・Webサービスの開発・運用の実績が豊富で、スケーラブルなサービス構築やデータ分析基盤の構築にも対応できます。

ベトナムIT企業はオフショアとパートナー選びが鍵

ベトナムのIT企業を活用する際には、適切な契約形態の選択と信頼できるパートナーの選定が成功の鍵となります。オフショア開発の実態を理解し、自社のニーズに合った協業モデルを構築することが重要です。

オフショア活用のモデルとメリット

オフショア開発の契約形態は、大きく分けて3つのモデルがあります。最も人気が高いのはラボ型開発で、全体の49%を占めています。この形態では、専属の開発チームを編成し、中長期的なプロジェクトに取り組みます。チームメンバーの入れ替えが少なく継続的に改善できる体制が整っていることが強みです。

請負型は33%のシェアを持ち、明確な成果物を定義して契約します。要件が固まっているプロジェクトや、期間と予算が明確な場合に適しています。仕様変更への対応は柔軟性に欠けますが、成果物の品質責任が明確である点が利点です。

SES型(準委任契約)は14%で、人材派遣に近い形態です。短期的なリソース補充や、特定のスキルを持つエンジニアを一時的に確保したい場合に活用されます。柔軟性は高いものの、チームとしての一体感を構築しにくい側面があります。

パートナー選定のチェックポイント

信頼できるベトナムIT企業を選定する際には、以下のように複数の観点からの評価が必要です。

確認項目 詳細内容 判断材料・チェックポイント
企業の実績と専門性 自社プロジェクトとの類似性確認 類似した開発経験の有無、同じ業界での実績
技術力の評価 技術スタックと開発手法 扱える技術の詳細、開発手法の聞き取り
技術志向の判断 GitHubでの公開プロジェクト、技術ブログの有無
品質管理体制 保有認証(ISO9001、ISMS、CMMMIなど)
コミュニケーション体制 言語対応 日本語対応可能な開発チーム、調整担当者の有無
ビジネス経験 日本でのビジネス経験を持つスタッフの有無
報告・連絡体制 定期的な報告体制、コミュニケーションツールの使用経験

契約前には必ず小規模なトライアルプロジェクトを実施することをお勧めします。実際に協業してみることで、コミュニケーションの円滑さ、技術力の実態、納期遵守の姿勢などを具体的に確認できます。

ベトナムITの課題

ベトナムIT拠点の活用には多くのメリットがある一方で、無視できないリスクや課題も存在します。これらを事前に理解し、適切な対策を講じることが、プロジェクト成功の条件となります。

人材不足と競争激化への対策

ベトナムでは優秀なIT人材の獲得競争が年々激しくなっています。特に先端技術を扱えるエンジニアや、ビジネスレベルの日本語能力を持つ人材は、常に複数の企業から引く手あまたの状態です。給与水準も上昇を続けており、コスト面でのメリットは徐々に縮小しつつあります。

この課題への対策として、長期的な視点でのパートナーシップ構築が重要です。単なる外注先としてではなく、戦略的なビジネスパートナーとして関係を築くことで、人材の安定的な確保につながります

複数の都市や企業に分散してリソースを確保する戦略も有効です。ハノイやホーチミンだけでなく、ダナンなどの地方都市の活用も検討する価値があります。また、新卒採用と育成に力を入れる企業との協業も、中長期的な人材確保策として効果的です。

品質管理とプロジェクトリスクの具体対処法

オフショア開発では、仕様通りに動作しない、コードの可読性が低い、テストが不十分といった問題が発生しやすく、多くは要件定義の曖昧さやコミュニケーション不足に起因します。品質を確保するには、画面遷移図やデータフロー図などを盛り込んだ詳細な要件定義書を作成し、口頭指示や曖昧な依頼は避けることが重要です。

開発プロセスではアジャイル開発を採用し、短いスプリントでレビュー・デモを行うことで早期に問題を修正します。また、日本側にも技術者を配置してコードレビューを定期的に実施し、コーディング規約や命名ルールを統一することで保守性の高いコードを実現可能です。

データ保護とサイバーセキュリティの課題

情報セキュリティは、オフショア開発において慎重に扱うべき領域です。特に個人情報や機密情報を扱うシステムの開発では、データ保護の仕組みを厳格に設計する必要があります。

ベトナムでは政府主導でサイバーセキュリティ法の整備が進められています。政令53号によるデータ保護規制の強化や、データローカリゼーション要件の導入など、法規制が年々厳格化しています。これらの法規制を理解し、コンプライアンスを確保することが、ビジネスリスクの回避につながるでしょう

実務面での対策としては、開発環境とデータへのアクセス制限が基本となります。VPNやIP制限を活用し、許可されたデバイスからのみアクセスできるようにします。データの暗号化、アクセスログの記録、定期的な監査の実施も重要な施策です。

ベトナムのビジネスには展示会出展が効果的

ベトナムでは、展示会への出展が企業のマーケティング戦略において極めて重要です。現地で開催される展示会は、自社の商品・サービスを認知してもらう最適な機会であり、特にB2B企業にとって欠かせない施策の一つとされています。開催数も年々増加しており、幅広い業種で行われる展示会は、効果的な販促チャネルとして注目されています。

展示会はテストマーケティングの場としても活用でき、現地顧客の反応を直接確かめることができます。さらに、単なる商品PRにとどまらず業界関係者とのネットワークづくりにも活用できるため、新規参入企業が現地での認知度を高め人脈を広げる上でも有効です。

このような対面での商談や交流を通じて有望な新規顧客の獲得やパートナー企業の発掘にもつながるため、展示会出展はベトナムにおけるB2Bビジネスで欠かせない施策となっています。

まとめ

ベトナムIT拠点の活用は、適切な理解と準備のもとで実施すれば、コスト削減と品質確保を両立できる有効な戦略となります。本記事で解説した内容を振り返り、重要なポイントを整理します。

  • ベトナムは4年連続でオフショア開発先として1位を維持し、年間5万人以上のIT卒業生を輩出する人材供給力がある
  • ベトナムのIT人材は高い能力を持ちつつも、人件費は日本の3分の1から2分の1程度
  • クラウド、モバイル、AIなどの先端技術に強い
  • パートナーの選定時は、実績や専門性、コミュニケーション体制の確認
  • 人材争奪の激化や品質管理、セキュリティ対策が今後の課題
  • 展示会出展は現地市場での認知度向上とビジネスネットワーク構築に効果的

ベトナムIT拠点の活用を検討されている企業は、これらのポイントを踏まえた上で、自社のニーズに合った協業モデルを選択してください。小規模なトライアルプロジェクトから始めて、段階的に規模を拡大していくアプローチが推奨されます。株式会社ビッグビートは、海外展示会出展のサポートをしています。特に、タイやベトナムに現地法人を有しており、出展企画の立案から展示ブースの設営、コンパニオンをはじめとする運営スタッフの手配や管理に至るまで、日本の高い品質基準を維持したまま、現地からの迅速なサポートを提供することが可能です。

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