ベトナムは年率14-16%の高成長を続ける魅力的な物流市場として注目されています。しかし、GDP比16.8-18%という高い物流コストや複雑な通関手続き、インフラ整備の遅れといった課題が、進出企業の事業展開を阻む要因となっています。この記事では、ベトナム物流の最新動向から通関・輸送での失敗を防ぐ具体的な対策まで、詳しく解説します。
ベトナムの物流市場の現状と成長見通し
ベトナムの物流市場は、経済成長と共に急速な拡大を続けています。製造業の集積とEC市場の伸長により、物流需要は今後さらに増加することが見込まれており、国内外の物流企業にとって大きなビジネスチャンスとなっています。
市場規模と成長率の推移
ベトナムの物流市場は2025年時点で400-420億ドル規模に達し、年間14-16%という高い成長率を維持しています。この成長速度はASEAN諸国の中でも突出しており、特に製造業の拠点化と越境EC取引の増加が市場拡大の主要な要因となっています。
一方で、物流コストはGDP比16.8-18%と世界平均の10.6%を大きく上回る水準にあります。ベトナム政府は2025年までに物流コストをGDP比15%に削減する目標を掲げており、南北高速道路の整備や港湾設備の近代化、通関手続きのデジタル化など、多方面での改革が実施されています。
産業別の物流需要動向
ベトナムの物流需要は産業構造の変化と密接に関連しています。製造業では特に電子機器や繊維製品の輸出が増加しており、これらの産業集積地域において物流センターや倉庫の需要が高まっています。北部のバクザン省やバクニン省は、サムスンをはじめとする電子機器メーカーの生産拠点が集中しており、部品調達から製品出荷までの物流体制が整備されています。
南部のビンズオン省は製造業の一大集積地として知られ、日系企業を含む多くの外資系企業が進出しています。同省の工業団地では、原材料の輸入から完成品の輸出まで一貫した物流サービスが提供されており、効率的なサプライチェーン構築が可能です。製造業の集積が進む地域では、部品の調達から製品の出荷まで効率的な物流網が構築されており、こうした物流環境が重視される傾向にあります。
電子商取引が物流に与える影響
越境ECと国内EC市場の急成長は、ベトナムの物流業界に大きな変革をもたらしています。消費者向け配送需要の増加により、ラストマイル配送の効率化が重要課題となっており、物流テクノロジーの導入が加速しています。特に都市部では、配送の迅速化と追跡システムの整備が進められており、顧客満足度の向上に不可欠です。
EC市場の拡大に伴い、迅速な配送と正確な在庫管理が競争力の鍵となっており、物流企業はテクノロジー投資を強化しています。越境EC物流では、通関手続きの効率化が課題となっており、デジタル通関システムの活用が進められています。
ベトナム物流の主要プレイヤーと競争環境
ベトナムの物流業界は、国内企業と外資系企業が混在する競争的な市場環境にあります。各企業は得意分野を活かしながら市場シェアの拡大を図っており、サービスの多様化と品質向上が進んでいます。
国内物流企業の特徴
ベトナムの物流企業の約90%は中小企業であり、資本金10億円未満の事業者が大半を占めています。これらの企業は地域密着型のサービスを提供する一方で、デジタル化投資や設備近代化への資金不足が課題です。しかし、地域の商習慣や言語に精通していることから、ローカル市場での配送網構築において強みを発揮しています。
一方で、先進的な国内企業は、IoT技術を活用したリアルタイム追跡システムを導入し、サービスの差別化を図っています。こうした取り組みは、中小企業においても段階的に普及しつつあります。
国内物流企業は地域に根ざしたネットワークと柔軟な対応力を強みとしており、外資系企業との協業を通じて国際標準のサービス品質を習得しています。日系物流企業との提携により、品質管理手法や安全基準を導入する事例も増えており、今後もサービス水準の底上げが進んでいくでしょう。
サプライチェーンの外部化動向
ベトナムでは、製造業を中心にサプライチェーン管理を専門の物流企業に委託する動きが加速しています。企業は本業への集中を図るため、倉庫管理や配送業務を外部化し、コスト効率と柔軟性の向上を実現しました。特に、国際的な品質基準を満たす3PL(サードパーティ・ロジスティクス)サービスへの需要が高まっており、外資系物流企業の参入も活発化しています。
サプライチェーンの外部化により、企業は在庫管理や輸送計画の最適化を専門家に委ね、コスト削減と業務効率化を同時に実現しています。
ベトナムの物流インフラと港湾・道路整備状況
物流インフラの整備状況は、ベトナムでのビジネス展開における重要な検討要素です。政府は大規模なインフラ投資を実施しており、港湾、道路、鉄道の整備が急ピッチで進められています。
主要港湾の現状と課題
ベトナムには南北に複数の主要港湾が点在しており、国際貿易の拠点として機能しています。
| 港湾名 | 地域 | 近接都市 | 主要取扱品目 | 特徴・現状 |
|---|---|---|---|---|
| ハイフォン港 | 北部 | ハノイ | 電子機器、機械部品 | コンテナ取扱能力の拡張工事中 |
| サイゴン港 | 南部 | ホーチミン市 | 消費財、原材料 | コンテナ取扱能力の拡張工事中 |
| ダナン港 | 中部 | – | – | 南北を結ぶ物流ハブとして重要性が増加 |
主要港湾では取扱能力の増強と効率化が同時に進められており、国際競争力の向上が図られています。港湾周辺には工業団地や物流センターが整備され、港から工場への輸送時間短縮が実現されています。
道路と鉄道の接続性
ベトナムの物流は道路輸送に大きく依存しており、全体の約75%が道路経由で行われています。交通量の増加による慢性的な渋滞という課題を解決するため、政府は南北高速道路網の整備を進めており、主要都市間の輸送時間短縮が期待されています。
鉄道貨物輸送はまだ発展途上にありますが、将来的な輸送手段の多様化に向けて整備が進められています。現在、鉄道は物流全体の約2%程度しか担っていませんが、中国との国境を越える貨物輸送や長距離大量輸送において活用される想定です。政府は鉄道インフラの近代化と輸送能力の増強を計画しており、道路輸送の負担軽減を目指しています。
倉庫と物流センターの整備状況
ベトナムでは、近代的な倉庫や物流センターの整備が急速に進んでいます。特に工業団地周辺では、保税倉庫や配送センターが集積しており、製造業のサプライチェーン効率化に貢献しています。主要都市近郊には大規模な物流センターが建設されており、EC事業者や小売業者が配送拠点として活用しています。
倉庫施設の品質向上と立地の最適化により、企業は在庫配置戦略を柔軟に設計できるようになりました。
ベトナム物流の課題とリスク管理
ベトナムで物流事業を展開する際には、特有の課題とリスクへの対応が求められます。適切なリスク管理体制を構築することで、業務の安定性と持続可能性を確保することが可能です。
労働力と人材不足の対策
ベトナムの物流業界では、熟練した人材の確保が大きな課題となっています。経済成長に伴い他業種への人材流出が進んでおり、特にドライバーや倉庫作業員の不足が深刻化しています。この状況に対応するため、企業は待遇改善や教育訓練プログラムの充実に取り組んでいます。
労働力不足への対策として、自動化技術の導入と従業員の多能工化が有効であり、多くの企業が段階的に実施しています。倉庫作業では、自動搬送機やピッキングアシストシステムの導入により、作業負荷の軽減と効率化が実現されています。従業員に対しては、複数の業務をこなせるよう訓練を施すことで、人員配置の柔軟性を高める取り組みが進められています。
インフラ制約と天候リスク対策
ベトナムの物流インフラは改善が進んでいるものの、依然として制約が存在します。地方部では道路の舗装状態が悪く、雨季と台風シーズンには通行が困難になる区間もあります。橋梁の耐荷重制限により大型車両が通行できないルートもあり、迂回による輸送時間の延長が発生します。こうしたインフラ制約を考慮した輸送計画の策定が重要です。
インフラ制約と天候リスクへの対応として、複数の輸送ルートの確保とバッファ在庫の保持が必要です。企業は、主要ルートが使用できない場合の代替ルートを事前に特定し、輸送業者と協力して対応計画を策定しています。在庫管理では、リードタイムの延長を見込んだ発注タイミングの調整や、地域分散配置によるリスク分散が行われています。
サプライチェーンのコンプライアンスリスク
ベトナムの物流業務では、輸出入規制や通関手続きに関するコンプライアンスリスクに注意が必要です。特に、リスト規制対象品目やキャッチオール規制の適用可能性については、慎重な確認が必要です。武器や中古IT商品など輸入が禁止されている品目もあり、事前の確認を怠ると通関で問題が発生します。
コンプライアンスリスクを最小化するためには、信頼できる通関業者との連携と社内チェック体制の確立が不可欠です。定期的な規制変更のモニタリングと従業員への教育も、リスク管理の重要な要素です。
ベトナムでの物流戦略とビジネス機会
ベトナム市場で成功するためには、現地の特性を理解した物流戦略の構築が重要です。進出形態の選択から最新技術の活用まで、多角的なアプローチが求められます。
進出形態の選び方
ベトナムへの物流事業進出には、複数の選択肢があります。独資企業として現地法人を設立する方法は、経営の自由度が高く独自の戦略を展開できる点がメリットです。現地パートナーとの合弁会社設立は、ローカルネットワークや知見を活用できる点で効果的ですが、経営方針の調整が課題となることもあります。
既存の物流企業との業務提携や代理店契約は、比較的低リスクで市場参入できる方法です。現地企業の物流網を活用することで、初期投資を抑えながらサービス提供が可能になります。
進出形態の選択では、自社の事業規模や投資余力、現地での事業展開スピードを総合的に考慮することが重要です。最新の規制情報を確認しながら、最適な進出形態を選択することが成功の鍵となるでしょう。
コスト最適化と現地調達
ベトナムでの物流コスト削減には、輸送方法の最適化と現地調達の活用が効果的です。共同配送の仕組みを利用し、複数企業の貨物を混載することで、積載効率を大幅に向上させることが可能です。現地での原材料や部品調達は、輸入コストと輸送時間の削減につながります。ベトナムでは製造業の集積により、部品供給業者のネットワークが拡大しており、品質面でも信頼できるサプライヤーが増えています。
コスト最適化では、輸送ルートの見直しと在庫配置の最適化も重要な要素となります。輸送距離を短縮するため、需要地に近い倉庫の活用や、港湾近接地への物流拠点設置が有効です。在庫管理では、需要予測の精度向上により安全在庫を適正化し、保管コストを削減できます。
デジタル化と物流テクノロジー導入
ベトナムの物流業界では、デジタル技術の導入が競争力強化の鍵となっています。WMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)の活用により、業務の可視化と効率化が実現されています。リアルタイムでの在庫把握や配送状況の追跡が可能になり、顧客への情報提供精度が向上しています。IoTセンサーを活用した温度管理や位置情報の取得により、品質保証と輸送管理の高度化も進んでいます。
物流テクノロジーの導入は段階的に進めることが重要であり、まずは課題の明確化と優先順位付けから始めるべきです。全ての業務を一度にデジタル化するのではなく、効果が大きい領域から着手することで、投資対効果を最大化できます。
ベトナムのビジネスには展示会出展が効果的
ベトナムでは、展示会への出展が企業のマーケティング戦略において極めて重要です。現地で開催される展示会は、自社の商品・サービスを認知してもらう最適な機会であり、特にB2B企業にとって欠かせない施策の一つとされています。開催数も年々増加しており、幅広い業種で行われる展示会は、効果的な販促チャネルとして注目されています。
展示会はテストマーケティングの場としても活用でき、現地顧客の反応を直接確かめることができます。さらに、単なる商品PRにとどまらず業界関係者とのネットワークづくりにも活用できるため、新規参入企業が現地での認知度を高め人脈を広げる上でも有効です。
このような対面での商談や交流を通じて有望な新規顧客の獲得やパートナー企業の発掘にもつながるため、展示会出展はベトナムにおけるB2Bビジネスで欠かせない施策となっています。
まとめ
ベトナムの物流市場は年率14-16%の高成長を続けており、製造業の集積とEC市場の拡大により、今後も旺盛な需要が見込まれます。一方で、GDP比16.8-18%という高い物流コストや複雑な通関手続き、インフラ整備の遅れといった課題も存在します。
- 通関手続きでは、正確な書類準備と経験豊富な通関業者との連携が不可欠
- インフラ制約や天候リスクへの対応として、代替ルート確保とバッファ在庫保持が重要
- 物流DXの推進により、業務効率化と可視化を実現できる
- 展示会出展は、現地市場での認知度向上と商談機会創出に極めて効果的
ベトナムでの物流業務を成功させるためには、現地の特性を理解し、適切なパートナーとの連携が不可欠です。通関手続きの複雑さや物流コストの高さといった課題に対して、専門知識を持つサポート企業の活用が有効です。また、展示会への出展を通じて現地バイヤーとの関係を構築し、市場での地位を確立することも重要な戦略となります。
株式会社ビッグビートは、海外展示会出展のサポートをしています。特に、タイやベトナムに現地法人を有しており、出展企画の立案から展示ブースの設営、コンパニオンをはじめとする運営スタッフの手配や管理に至るまで、日本の高い品質基準を維持したまま、現地からの迅速なサポートを提供することが可能です。




