ベトナムは平均年齢28歳という若い労働力と年率6.5%以上の経済成長を背景に、製造業の進出先として世界中から注目を集めています。本記事では、ベトナムのインフラの実態、人件費の動向、人材確保の課題を他国と比較しながら徹底解説します。
ベトナム製造業の現状と主要指標
ベトナムの製造業は国家経済の中核を担い、輸出主導型の成長戦略において重要な役割を果たしています。2024年のデータでは外国直接投資実行額が253.5億米ドルに達し、製造業セクターが最大の投資受入先となっています。
経済における製造業が占める位置
製造業はベトナムGDPの約25%を占め、国家経済の成長エンジンとして機能しています。2025年のGDP成長率は6.5〜7.0%と予測されており、ASEAN諸国の中でも高い成長率を維持しています。雇用面では、製造業は約1,500万人の労働者を抱え、特に若年層の雇用創出に大きく貢献しているのです。
人口約9,946万人のうち、平均年齢が28歳と若く、労働人口の約55%が生産年齢層に属しています。この人口構成は製造業にとって長期的な労働力確保の観点から極めて有利な条件となっています。
生産額・輸出額の推移と主要データ
ベトナムの製造業輸出額は過去10年間で急速に拡大し、2024年には3,500億米ドルを超える規模に達しました。輸出額全体に占める製造業の割合は85%以上となり、国家の外貨獲得において中心的な役割を担っています。
2024年上半期の製造業FDI認可額は105億6,526万ドルで、件数・金額ともに前年同期比で増加傾向にあります。この数字は、世界的なサプライチェーン再編の中でベトナムが製造拠点として選ばれ続けていることを示しています。
主要輸出品目と産業構成
ベトナムの製造業における輸出品は多様化が進んでいます。携帯電話・電子部品が輸出全体の約30%を占め、次いで繊維・アパレルが15%、機械・設備が12%と続きます。
| 輸出品目 | 輸出額(億ドル) | 構成比 |
|---|---|---|
| 携帯電話・電子部品 | 1,050 | 30% |
| 繊維・アパレル | 525 | 15% |
| 機械・設備 | 420 | 12% |
| 履物 | 245 | 7% |
| 木材・家具 | 210 | 6% |
産業構成を見ると、労働集約型産業から技術集約型産業へのシフトが進んでいます。半導体製造やEV関連部品など、高付加価値製品の生産が増加しており、産業の高度化が着実に進行しています。
セクター別の特徴とサプライチェーン
ベトナムの製造業は多様なセクターで発展しており、それぞれが異なる強みと課題を持っています。各産業セクターの特徴を理解することで、自社に最適な進出戦略を立案できます。
エレクトロニクス・半導体産業の特徴
エレクトロニクス産業はベトナム製造業の中核を占め、特にSamsungの大規模投資により携帯電話生産のグローバルハブとなりました。Samsungだけで約16万人を雇用し、ベトナムのスマートフォン輸出の半分以上を生産しています。
半導体産業では、Intelがチップ製造・組立工場を運営しており、今後さらなる投資拡大が計画されています。日系企業では、村田製作所やTDKなどの電子部品メーカーが主要な生産拠点を構えています。
この産業の課題は、高度な技術を持つエンジニアの不足と現地調達率の低さです。現地調達率は36.6%程度にとどまり、多くの部品を日本や中国から輸入する必要があります。サプライチェーンの現地化が今後の競争力向上に向けた重要な課題となっています。
繊維・アパレル産業の特徴
繊維・アパレル産業はベトナムの伝統的な強みであり、約300万人を雇用する最大の労働集約型産業です。ナイキ、アディダス、ユニクロなど世界的なブランドの生産拠点が集中しており、特に縫製加工の品質と納期順守率の高さが評価されています。
近年の動向として、単純な縫製加工から、デザイン・素材開発を含む高付加価値製品へのシフトが進んでいます。EU向け輸出ではEVFTA(EU・ベトナム自由貿易協定)により関税が撤廃され、競争力がさらに強化されています。
自動車部品・電気自動車関連の特徴
自動車産業はベトナム製造業の中で急成長しているセクターです。完成車生産は年間約40万台規模ですが、自動車部品産業が着実に成長しており、特に二輪車部品では世界有数の生産規模を誇ります。
電気自動車関連では、国産EVメーカーVinFastが積極的な展開を進めており、EV関連部品の需要が急速に拡大してきました。日系企業では住友電装が大規模なワイヤーハーネス工場を運営し、トヨタ・ホンダ向けの部品供給拠点として機能しています。
家具・木材加工・木材輸出の特徴
家具・木材加工産業は輸出額210億ドル規模の重要セクターで、米国・EU・日本向けの高品質家具の主要供給国となっています。原材料の持続可能性への要求が高まる中、FSC認証材の使用率を高めるなど、環境対応も進んでいます。
この産業の特徴は中小企業が多く、技能工の育成が競争力の鍵となっている点です。デザイン力の向上と自社ブランド開発により、OEM生産からの脱却を目指す企業も増えています。
化学・重化学工業の特徴
化学産業はベトナムで発展途上のセクターですが、石油化学コンビナートの建設が進み、プラスチック原料や化学製品の国内生産が拡大しています。現状では基礎化学品の多くを輸入に依存していますが、政府は化学産業の育成を重点政策としています。
日系企業では東ソー、JSR、三菱ケミカルなどが進出しており、自動車・エレクトロニクス向けの化学製品を供給しています。環境規制が強化される中、クリーン技術への投資が求められています。
食品加工・農産物加工の特徴
食品加工産業は国内消費と輸出の両面で成長しています。ベトナムは世界有数の農産物輸出国であり、コーヒー・カシューナッツ・水産物の加工が盛んです。中間所得層の拡大により、加工食品・冷凍食品の国内市場も年率10%以上で成長しています。
食品安全基準の強化が進む中、HACCP認証やGlobal GAPなどの国際認証取得が輸出企業の重要課題です。日系企業では味の素、キューピー、日清製粉などが現地生産を展開しています。
地域別の投資環境(北部・中部・南部)
ベトナムは南北に長い国土を持ち、地域ごとに産業の特徴やインフラ水準が大きく異なります。最適な立地選定には各地域の特性を理解することが不可欠です。
北部(ハノイ周辺)の特徴
北部はハノイを中心に政治・行政の中枢機能が集中し、エレクトロニクス・機械産業の一大集積地となっています。Samsung、Canonなどの大手企業が主要工場を構え、裾野産業の集積も進んでいます。
バクザン省とバクニン省は工業団地が集中し、特にエレクトロニクス・精密機械産業の企業にとって最適な立地です。バクザン省は中国国境に近く、原材料調達の利便性が高い一方、バクニン省はハノイ中心部から車で約30分の距離にあり、人材確保と物流の両面で優位性があります。
北中部・中部の特徴
中部地域は近年の新興投資先として注目されており、ダナン・クアンナム・フエなどの都市を中心に工業団地開発が加速しています。人件費が北部・南部より10〜15%低く、労働力の確保も比較的容易です。
この地域の最大の優位性は、南北を結ぶ国道1号線と東西経済回廊の交差点に位置することです。ラオス・タイへのアクセスが容易で、ASEAN域内サプライチェーンの拠点として戦略的価値が高まっています。深水港の整備も進んでおり、物流面でのポテンシャルが高い地域です。
南部(ホーチミン・東南部)の特徴
南部はホーチミン市を中心とする経済の中心地で、ベトナム最大の消費市場と物流ハブを形成しています。ビンズオン省・ドンナイ省・ロンアン省などの周辺地域に多数の工業団地が展開され、多様な産業が集積しています。
ビンズオン省は南部最大の工業集積地で、約200の工業団地に3,000社以上の企業が進出しています。日系企業も多く、自動車部品・機械・化学など幅広い業種が操業しています。ホーチミン市中心部から車で約30分の距離にあり、人材確保と市場アクセスの両面で優れた立地条件を持っています。
ベトナム産業のFDIと日系企業の動向
ベトナムへの外国直接投資は一貫して増加しており、特に製造業セクターが最大の投資受入先となっています。投資国の多様化も進み、戦略的な投資環境が形成されています。
外資流入の推移と業種別傾向
2024年のFDI実行額は約253.5億米ドルに達し、過去最高水準を記録しました。製造業への投資が全体の約65%を占め、特にエレクトロニクス・機械・化学産業への投資が好調です。2024年上半期の製造業FDI認可額は105億6,526万ドルで、件数・金額ともに前年同期比で増加しています。
業種別に見ると、半導体関連産業への投資が急増しています。EV関連部品産業も注目され、バッテリー・モーター・電子制御システムなどの分野で新規投資が相次いでいます。
日系企業の進出状況と特徴
日系企業のベトナム進出は約2,100社に達し、ASEAN最大級の日系企業集積地となっています。製造業が約60%を占め、自動車部品・エレクトロニクス・機械・化学など幅広い業種が展開しています。
日系企業の特徴は、品質重視の生産体制と長期的な人材育成への取り組みです。住友電装はハノイ近郊に大規模なワイヤーハーネス工場を展開し、約3万人を雇用しています。パナソニックは南部に複数の工場を構え、家電製品のASEAN域内供給拠点として機能しているのです。
日系企業の64.1%が黒字見込みとする調査結果があり、これはASEAN諸国の中で最も高い収益期待率となっています。成功要因として、現地人材の活用、品質管理体制の徹底、サプライチェーンの最適化などが挙げられます。
ベトナムへの進出戦略と実務ステップ
ベトナムへの製造業進出を成功させるには、綿密な準備と段階的なアプローチが不可欠です。市場調査から工場稼働までの各段階で適切な判断と実行が求められます。
立地選定のポイント
立地選定では、顧客との近接性、原材料調達の利便性、労働力確保の容易さ、物流インフラの整備状況という4つの要素を総合的に評価することが重要です。北部・中部・南部それぞれに異なる優位性があるため、自社の事業特性に最適な地域を選択する必要があります。
工業団地の選定では、電力供給の安定性、排水処理設備の能力、通関手続きの効率性を確認することが必要とされています。また、工業団地によって提供される支援サービスの内容が異なるため、行政手続きサポート、人材紹介、通訳サービスなどの利用可能性も評価すべきです。
現地法人設立の手順
現地法人設立には投資登録証明書(IRC)と企業登録証明書(ERC)の取得が必要です。まず事業計画書を作成し、投資計画・資金計画・雇用計画を詳細に記載します。投資形態(100%外資、合弁、支店など)により必要書類が異なるため、専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。
手続きの流れは以下の通りです。投資登録証明書の申請から取得まで約45日、企業登録証明書の取得に約15日、税務・税関・社会保険などへの登録に約30日を要します。全体で3〜4ヶ月程度かかるため、余裕を持ったスケジュールを組む必要があります。
設立後は銀行口座開設、会計システムの構築、税務申告体制の整備が必要です。ベトナムの会計基準は国際会計基準に準拠していますが、ローカルルールも存在するため、現地の会計事務所と提携することが実務上不可欠です。
パートナー選定・合弁の注意点
合弁事業を検討する場合、パートナー選定が成否を左右します。技術力・財務基盤・経営理念の適合性を慎重に評価する必要があります。
合弁契約では、意思決定プロセス、利益配分、技術移転の範囲、紛争解決方法を明確に規定することが不可欠です。特に重要なのは、取締役会の運営ルールと拒否権の範囲です。経営の重要事項については、どちらか一方の同意だけで決定できないような仕組みを構築しましょう。
ベトナム製造業の将来展望
ベトナム製造業は今後も成長が見込まれますが、産業構造の変化と新たなトレンドに適応することが競争力維持の鍵となります。中長期的な視点での戦略構築が求められます。
ベトナム製造業の主要トレンド
ニアショアリングの流れが加速しており、ベトナムは中国からの生産移管先として第一候補となっています。米国企業の多くが中国リスク分散を進めており、ベトナムへの投資は今後3〜5年で倍増すると予測されています。
EV産業の成長は、ベトナム製造業に大きなインパクトを与えてきました。国産EVメーカーVinFastの積極展開により、EV関連部品の需要が急拡大しています。バッテリー・モーター・パワーエレクトロニクスなどの分野で、新規参入の機会が広がっています。また、EV用充電インフラの整備も進んでおり、関連ビジネスのチャンスも増加しているのです。
半導体産業では、Intelの大規模投資に続き、複数の国際企業が後工程の拠点をベトナムに設立する計画を発表しています。半導体製造装置や材料の供給企業にとって、ベトナムは重要な市場となるでしょう。
今後有望な産業分野
今後有望な産業分野として、以下が挙げられます。まず、医療機器・ヘルスケア産業は、中間所得層の拡大と高齢化の進行により急成長が見込まれます。医療用電子機器や診断装置の需要が高まっており、高品質製品を供給できる日系企業にとって大きなチャンスです。
再生可能エネルギー関連産業も有望です。ベトナム政府は2030年までに再生可能エネルギー比率を30%に引き上げる目標を設定しており、太陽光・風力発電設備の需要が拡大しています。関連部品や制御システムの製造において、日本の技術が評価されています。
スマート工場・IoT関連産業も成長分野です。製造業の自動化・デジタル化が進む中、産業用ロボット・センサー・制御システムの需要が急増しています。また、食品加工・農業機械の分野でも、近代化のニーズが高まっており、日本の技術を活かせる機会も多くなるでしょう。
ベトナムのビジネスには展示会出展が効果的
ベトナムでは、展示会への出展が企業のマーケティング戦略において極めて重要です。現地で開催される展示会は、自社の商品・サービスを認知してもらう最適な機会であり、特にB2B企業にとって欠かせない施策の一つとされています。開催数も年々増加しており、幅広い業種で行われる展示会は、効果的な販促チャネルとして注目されています。
展示会はテストマーケティングの場としても活用でき、現地顧客の反応を直接確かめることができます。さらに、単なる商品PRにとどまらず業界関係者とのネットワークづくりにも活用できるため、新規参入企業が現地での認知度を高め人脈を広げる上でも有効です。
このような対面での商談や交流を通じて有望な新規顧客の獲得やパートナー企業の発掘にもつながるため、展示会出展はベトナムにおけるB2Bビジネスで欠かせない施策となっています。
まとめ
ベトナムは若い労働力と年率6.5%以上の高い経済成長を背景に、製造業の有力な進出先として注目されています。本記事では、インフラの実態、人件費動向、人材確保の課題を他国と比較しながら詳しく解説しました。
- ベトナムの製造業はGDPの25%を占め、外国直接投資額は253.5億ドルに達する成長市場
- 北部はエレクトロニクス産業の集積地、南部は多様な産業が展開し消費市場としても魅力的
- 日系企業の64.1%が黒字見込みで、ASEAN内で最も高い収益期待率
- EV、半導体、医療機器などの成長産業で新たなビジネスチャンスが拡大中
- 展示会出展はベトナム市場での認知度向上と顧客開拓に極めて効果的
ベトナム進出を成功させるには、綿密な市場調査と段階的なアプローチ、そして現地人材の育成と活用が鍵となります。展示会への出展を通じて市場動向を把握し、信頼できるパートナーを見つけることも重要な戦略です。
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