Home 9 ブログ 9 ベトナムのインフラ事情を徹底解説|物流・電力で失敗しないための注意点
ベトナム インフラ

ベトナムは2025年現在、急速な経済成長とともに交通インフラや電力インフラの大規模な整備を進めており、外資誘致政策と産業多角化戦略の一環として積極的な公共投資拡大を実施しています。しかし一方で、物流網の整備遅延や電力供給の不安定性など、現地でビジネスを展開する際に注意すべき課題も多く存在します。本記事では、港湾整備から高速道路建設、LNGエネルギー導入まで、最新のインフラ開発状況と実務上のリスク対策を詳しく解説します。

ベトナムの交通インフラ現状と最新プロジェクト

ベトナムの都市部を中心とした急速な交通インフラの発展は、GDP成長率目標の達成に向けて大きな役割を果たしています。特に、主要都市間を結ぶ幹線道路や港湾施設の整備が優先的に進められています。

高速道路網の整備状況

ベトナムの高速道路延長は2023年時点で1,832kmに達し、2025年には南北高速道路東側ルートの全線開通が予定されています。この南北高速鉄道計画は国家的な重要プロジェクトとして位置づけられており、北部から南部まで一体化された物流網の構築を目指しています。

現在進行中の主要プロジェクトとして、ホーチミン市では環状3号線の建設が加速しており、都市圏内外へのアクセス改善により慢性的な渋滞問題の解決が期待されています。また、ハノイからハイフォン港を結ぶ高速道路の拡張工事も2025年内の完成を目標として工事が進められています。

鉄道・地下鉄開発の進展

ハノイでは都市型鉄道としてハノイメトロが2021年に開業しましたが、当初の計画から6年遅れての完成となりました。一方、ホーチミン市では都市鉄道1号線が2024年末に開業し、開業から半年で延べ1,000万人を超える乗客数を記録しています。

長距離鉄道においては、ハノイ・ホーチミン間輸送網強化の一環として統一鉄道の近代化が進められていますが、現在でもこの2つの都市間の移動時間は約36時間を要します。これらを踏まえると、列車本数の少なさと時刻表の不安定性は、物流計画立案時に必ず考慮すべきといえるでしょう。

空港開発と港湾整備

空港開発については、現在22箇所の空港が運用されており、2050年には33箇所への拡張が計画されています。特に注目すべきは、現在開発中の新しい国際空港プロジェクトであるロンタイン国際空港計画で、これによりホーチミン市周辺の航空輸送能力が大幅に向上する予定です。

港湾整備では全国140の港湾施設が稼働していますが、年末やテト(旧正月)期間中には物流遅延が頻発する傾向があります。季節的な物流停滞を避けるため、貨物輸送スケジュールには十分な余裕期間を設けることが重要です

物流網の整備状況と実務上の注意点

ベトナムの物流網は国際競争力向上の観点から戦略的な整備が進められており、特に製造業の集積地と港湾を結ぶアクセス改善に重点が置かれています。一方で、インフラ整備の進捗にはバラつきがあり、実務面での課題も存在します。

主要工業団地のアクセス状況

北部ではバクザン省とバク二ン省が製造業の重要拠点として発展しており、ハノイ市内から各工業団地への高速道路アクセスが整備されています。バクザン省は電子機器産業の集積地として知られ、Samsung等の大手企業が生産拠点を構えています。

南部においては、ビンズオン省が自動車産業と繊維産業の中心地として機能しており、ホーチミン市とタン・ソン・ニャット国際空港へのアクセスが良好です。これらの工業団地では24時間稼働の物流センターが整備されており、効率的なサプライチェーン構築が可能です

国際物流の課題と対策

ベトナムの国際物流においては、中国との陸路輸送、シンガポール・日本との海上輸送が主要ルートとなっています。しかし、通関手続きの複雑さや書類審査の厳格化により、予定よりも長時間を要する場合が多く見られます。

特に、電子機器や精密機械の輸出入においては、品質検査と安全基準適合証明の取得に通常より多くの時間を要するため、余裕を持った物流計画の策定が不可欠です。また、税関での検査頻度も品目によって大きく異なるため、事前の情報収集が重要となります。

ラストワンマイル配送の現状

都市部におけるラストワンマイル配送(商品が配送拠点から最終消費者のもとへ届けられる最後の区間の配送)は急速にデジタル化が進んでおり、配送アプリの普及により効率化が図られています。一方、農村部では道路インフラの未整備により配送コストが高くなる傾向があります。

製品の最終消費者への配送を計画する際には、都市部と農村部の配送コスト格差を考慮した価格設定と配送戦略の策定が求められます。特に重量物や冷蔵品については、配送可能地域が限定される場合があります。

電力インフラの現状と課題分析

ベトナムの電力インフラについては、急速な工業化に伴う電力需要増加に対応するため、大幅な設備拡張と電源構成の多様化が進められています。現在の電化率は99.26%と高水準を維持していますが、地域格差や供給安定性といった課題が残っています。

電源構成と供給体制

2025年現在のベトナムの電源構成は、火力発電が52%、水力発電が35%、再生可能エネルギーが13%となっています。政府は環境配慮と供給安定性の両立を目指し、LNGエネルギー導入を積極的に推進していますが、実際の進捗には遅れが生じています。

電力開発基本計画(PDP8)改定版対応策として、16件のLNG火力発電所建設プロジェクトが計画されていますが、稼働済みは2件のみで、多くの案件が契約交渉や資金調達の難航により遅延している状況です。これにより、夏季を中心とした電力需要ピーク時には大規模停電が発生するリスクが継続しています。

地域による電力供給格差

全国平均の電化率は高い水準にありますが、北部山間部では未電化地域が存在し、農村部と都市部の格差が顕著に現れています。工業団地が集中する南部地域では比較的安定した電力供給が確保されている一方、北部の一部地域では供給能力不足のために計画停電が実施されることがあります。

製造業の立地検討においては、対象地域の電力供給実績と自家発電設備の設置可能性を事前に詳細調査することが必須です。特に電力消費量の多い業種では、複数の電力調達手段を確保する必要があります。

再生可能エネルギーの展開

ベトナム政府は2030年までに再生可能エネルギー比率を20%に引き上げる目標を設定していますが、現在は13%に留まっています。太陽光発電と風力発電の導入が進められているものの、送電網の整備遅れや蓄電技術の不足により、再生可能エネルギーの安定供給には技術的課題が残されています

水道・ガス・通信インフラの普及状況

基本生活インフラの整備状況は、事業運営の基盤となる重要な要素です。ベトナムでは都市部を中心に急速な改善が進んでいますが、地域による格差と供給品質の課題が存在します。

上下水道インフラの整備状況

都市部における上水道普及率は91%に達していますが、下水道普及率は20%程度に留まっており、政府目標の70%を大幅に下回っています。この格差は都市計画の急速な変化と人口集中により生じており、インフラ整備が人口増加に追いついていない現状を示しています。

水質については、都市部では国際基準に準拠した浄水処理が行われていますが、工場での生産活動においては独自の水質検査と浄水設備の設置が推奨されます。特に食品製造業や化学工業では、原料水の品質管理が製品品質に直結するため、設備投資計画に水処理システムを含める必要があります。

ガス供給システムの現状

都市ガスの普及率は1-2%と極めて低く、一般家庭ではLPガスボンベが主流となっています。この状況には安全性の課題が残っており、ガス爆発事故が毎年発生している現実があります。

新興住宅地やマンション開発では電化が進む傾向にありますが、工業用途では安定したエネルギー供給の確保が重要であり、複数のエネルギー源を組み合わせたリスク分散が必要です。特に製造業では、電力とガスの両方を使用可能な設備設計が推奨されます。

通信インフラの高度化

ベトナムの通信インフラは東南アジア諸国の中でも先進的な水準にあり、4Gカバー率は99.8%と先進国平均を上回っています。スマートフォン普及率も63%に達し、世界第10位の水準を誇っています。

5G通信網の展開も都市部を中心に開始されており、製造業のIoT化やデジタル・トランスフォーメーションを支援する基盤が整備されつつあります。デジタル技術を活用した生産管理システムや品質管理システムの導入において、通信インフラの安定性は十分に確保されています

地域格差と今後の開発計画

ベトナムのインフラ開発においては、都市部と農村部の格差是正が重要な政策課題となっています。政府は直接投資増加傾向分析をもとに、バランスの取れた国土開発を目指した中長期計画を策定しています。

都市部と農村部のインフラ格差

主要都市であるハノイとホーチミンでは、国際水準のインフラが整備されている一方で、農村部では基本的な電力・水道・通信設備の普及に課題が残されています。この格差は教育・医療サービスの提供にも影響を与えており、人材確保の観点からも重要な問題となっています。

製造業の地方展開を検討する際には、現地でのインフラ整備状況と従業員の生活環境を総合的に評価し、必要に応じて企業による追加投資を計画することが重要です。特に技術者や管理職の確保においては、生活インフラの充実度が重要な要因となります。

DXによる格差是正への取り組み

ベトナム政府はデジタル・トランスフォーメーション政策により、地域格差の是正を図る取り組みを推進しています。遠隔医療システムの導入や電子カルテの普及により、農村部でも都市部と同水準の医療サービス提供が可能になりつつあります。

教育分野では、オンライン学習プラットフォームの整備により、地理的制約を超えた高品質な教育機会の提供が進められています。これらのデジタル化の進展により、企業の人材採用において地域を超えた優秀な人材確保の可能性が広げられています

中長期開発戦略と投資機会

ベトナム政府は2030年までの中期開発計画において、全国的なインフラ整備を通じた地域間格差の縮小を目標として掲げています。この計画には、高速道路網の全国展開、地方空港の整備、再生可能エネルギーの分散配置などが含まれています。

外資企業にとっては、政府のインフラ整備計画と連動した立地戦略により、将来的な競争優位性を確保できる可能性があります。特に、現在は交通アクセスに制約がある地域でも、将来的なインフラ改善を見込んだ先行投資により、低コストでの事業基盤構築が可能となる場合があります。

実務上のリスク管理と対策

ベトナムでの事業展開において、インフラ関連のリスクを適切に管理することは、安定した事業運営を確保するための重要な要素です。実際の現場では、計画段階では予想できない様々な課題が発生する可能性があります。

停電・断水への対策

電力供給の不安定性に対応するため、自家発電設備の設置は多くの製造業で標準的な対策となっています。特に24時間稼働が必要な生産ラインでは、瞬間的な停電でも大きな損失につながる可能性があるため、無停電電源装置の導入も重要です。

水道供給についても、貯水タンクの設置と定期的な水質検査により、安定した生産活動を維持する体制の構築が必要です。特に食品加工業や化学工業では、原料水の品質変動が製品品質に直接影響するため、独自の水処理システムの導入が推奨されます。

物流遅延への対策

港湾や空港での通関手続きの遅延は、製造業のサプライチェーンに大きな影響を与える可能性があります。原材料の調達においては、複数の供給ルートを確保し、在庫管理戦略を見直すことが重要です。

特に、中国からの陸路輸送と東南アジア諸国からの海上輸送を組み合わせることで、単一ルートへの依存リスクを軽減し、柔軟な調達体制を構築することが可能です。また、現地調達可能な部材の比率を高めることで、国際物流への依存度を下げる戦略も有効です。

通信障害への対策

デジタル化が進む現在、通信インフラの障害は事業運営に深刻な影響を与える可能性があります。クラウドサービスの利用においては、複数のデータセンターを活用したバックアップ体制の構築が重要です。

2025年7月に施行される「データ法」により、重要データの越境移転に新たな制限が設けられるため、データ管理体制の見直しと法令遵守のための社内体制整備が急務となります。特に個人情報や企業秘密を扱う業務では、現地法に適合したデータ保護システムの構築が必要です。

まとめ

ベトナムのインフラ事情について、交通・電力・物流・通信の各分野における現状と課題、実務上の注意点を詳しく解説しました。急速な発展を遂げる一方で、地域格差や供給安定性の課題が存在することが明らかになりました。

  • 高速道路や港湾整備は着実に進展しているが、工期遅延のリスクを考慮した事業計画が必要
  • 物流網は改善傾向にあるものの、通関手続きや季節的要因による遅延対策が重要
  • 電力供給は都市部では比較的安定しているが、自家発電設備による備えが不可欠
  • 通信インフラは高水準だが、新たなデータ保護法への対応が急務
  • 地域格差は存在するが、DXによる是正効果と将来的な改善に期待できる

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