
急成長する東南アジア市場の中でも、特にベトナムは日系企業の投資先として注目を集めています。多くの日本企業がベトナム進出を成功させており、その背景には人口約1億人という巨大市場に加え、豊富な労働力と政府の積極的な外資誘致政策があります。本記事では、IT企業のオフショア開発から小売業の現地法人設立、製造業の生産拠点構築まで、さまざまな業界でベトナムビジネスを成功させた企業の実例を詳しく解説します。各事例から戦略を学ぶことで、ベトナム展開の具体的なアクションプランを描けるようになるでしょう。
ベトナムビジネス成功の背景と市場環境
ベトナムが日系企業にとって魅力的な投資先となっている理由には、複数の構造的要因があります。経済成長率は年平均5-7%程度で、2023年のGDPは約4,300億ドルに達しました。
急成長する経済規模と人口動態
ベトナムの人口構成は非常に若く、平均年齢は約32歳となっています。労働人口の約60%が35歳以下という若い世代中心の構造が、IT産業や製造業において高い学習能力と適応力を発揮しており、多くの日系企業がこの人材優位性を活用して成功を収めています。
また、都市化率は約37%とまだ低水準にあるものの、ホーチミンやハノイといった主要都市では急速な発展が続いています。この都市化の進展により、消費市場の拡大と現地パートナー連携の機会が増加している状況です。
政府の外資誘致政策と投資環境
ベトナム政府は2013年以降、国家戦略として起業促進と外資誘致を積極的に推進しています。特にIT分野や製造業に対する優遇措置が充実しており、法人税率の軽減や土地使用権の長期提供などの支援策が用意されています。
投資手続きの簡素化も進んでおり、現地法人設立にかかる期間は以前より大幅に短縮されています。ただし、業種によっては外資規制が残っているため、事前の詳細な市場調査と法的確認が必要となります。
日本企業に有利な文化的親和性
ベトナムでは日本の技術力や品質管理に対する評価が高く、日本ブランドへの信頼度が東南アジア地域でも特に高いレベルにあります。教育熱心な国民性も日本の教育関連サービスや技術研修への需要を生み出しています。また、勤勉で学習意欲の高い労働者が多く、日本企業の文化や働き方に適応しやすいという特徴があります。
IT業界における成功事例
ベトナムのIT分野は、優秀な人材と低コスト構造を背景に、日系企業のオフショア開発拠点として急速に発展しています。多くの大手IT企業が現地に開発センターを設立し、高品質なシステム開発を実現しています。
大手SIerによるオフショア開発拠点の構築
日本の大手システムインテグレーター各社は、ベトナムにおけるオフショア開発で顕著な成果を上げています。現地の優秀なエンジニアを活用することで、開発コストを日本の約30-40%に削減しながら、品質面では日本国内と同等レベルを維持することに成功しています。
特に重要な成功要因は、ブリッジSEと呼ばれる日本語が堪能な現地エンジニアの育成と活用です。これらの人材が日本側の要求仕様を正確に理解し、現地開発チームとの橋渡し役を担うことで、コミュニケーションギャップを最小限に抑えています。
ManabieのEdTech市場における戦略
ベトナムのEdTech市場は2024年時点で急成長しており、2025年から2033年にかけて年平均成長率(CAGR)17.5%が予測されています。デジタルネイティブ世代の増加と政府のデジタル教育推進政策により、教育分野でのIT活用は加速度的に拡大しています。
日本人の本間拓也氏が共同創業したManabieは、ベトナムの教育市場で急成長を遂げているEdTechスタートアップです。同社は動画視聴とテストを組み合わせた学習アプリを提供し、欧米式のメンター制度に基づく学習支援を特徴としています。教育熱心なベトナム文化と最新のデジタル技術を融合させることで、従来の教育方法では提供できない価値を創出しました。
Manabieの成功要因は、ベトナムの教育制度と文化を深く理解した上でのサービス設計にあります。ベトナムの義務教育期間は10年間と日本より1年長く、年間教育費は家計収入の約12%を占めるほど教育への投資意欲が高い市場特性を活用しています。
小売業界における成功事例
ベトナムの小売市場は、経済成長と都市化の進展により急速に拡大しています。特に日系小売業は、きめ細かなサービスと品質管理により、現地消費者から高い評価を獲得しています。
イオンモールの戦略的市場参入
イオンモールはベトナム小売業界における日系企業の代表的成功例として位置づけられています。2014年の1号店オープン以降、ホーチミンとハノイを中心に店舗展開を進め、現在では4店舗を運営しています。
イオンモールの成功要因は、ベトナム消費者のライフスタイル変化を的確に捉えた店舗コンセプトの構築にあります。共働き世帯の増加や中間所得層の拡大に対応し、ファミリー向けエンターテインメント機能を充実させることで、単なるショッピング施設を超えた価値を提供しています。
また、グローバル基準の運営ノウハウを維持しながら、ベトナム特有の消費習慣に合わせた柔軟な現地化を実現しています。特に食品フロアでは、現地の嗜好に合わせた商品構成と価格設定により、幅広い所得層からの支持を獲得しています。
さらに、ベトナムの祝祭日や文化的イベントに合わせたプロモーション展開により、現地コミュニティとの密着度を高めています。テト(旧正月)や中秋節などの伝統行事では、特別な装飾や限定商品の販売を行い、文化的な親近感の醸成に成功しています。
Pizza 4P’sの革新的アプローチ
飲食業界では、Pizza 4P’sが日系企業による現地展開の成功モデルとして注目されています。元IT企業勤務の日本人夫妻が創業したこのピザレストランは、「良い雰囲気と手頃な価格」というコンセプトで急成長を遂げました。
ベトナムの外食文化定着と女性労働率の高さ(約70%)という社会的背景を活用し、カジュアルダイニングという新しいカテゴリーを現地に定着させています。2020年にはVietnam Restaurant & Bar AwardsでPeople’s Choice賞を受賞するなど、業界からも高い評価を受けています。
製造業における成功事例
ベトナムは製造業にとって、コスト競争力と供給チェーンの多様化を実現する重要な生産拠点として機能しています。多くの日系製造業が現地での生産体制構築に成功し、アジア地域全体への輸出ハブとしても活用しています。
トヨタ自動車の現地生産戦略
トヨタ自動車は2019年からベトナムでの現地生産を本格化し、東南アジア市場向けの戦略車種製造拠点として位置づけています。特にヴィオスモデルの現地生産により、現地市場のニーズに適合した価格競争力のある製品供給を実現しています。
トヨタの成功要因は、段階的な現地化戦略と徹底したサプライヤー育成にあります。当初は部品の多くを輸入に依存していましたが、現地サプライヤーの技術指導を通じて段階的に現地調達率を向上させ、現在では約40%の現地調達を達成しています。
医薬品業界における成功事例
久光製薬は1994年からベトナム市場に参入し、現地での工場設立と代理店ネットワーク構築により、医薬品市場での確固たる地位を築いています。特に、サロンパスブランドの普及により、現地消費者の間で高い認知度を獲得しています。
医薬品業界では外資規制があるため、現地代理店との密接な連携が成功の鍵となります。久光製薬は、薬局チェーンとの長期的なパートナーシップ構築により、安定した販売網を確保し、将来の高齢化社会を見据えた市場ポジションを確立しています。
成功企業に共通する戦略とリスク管理
ベトナムでビジネスを成功させている日系企業には、いくつかの共通した戦略やアプローチが見られます。
徹底した市場調査と現地理解
成功企業の多くは、進出前に複数年にわたる詳細な市場調査を実施しています。単純な市場規模の把握だけでなく、消費者の行動パターン、競合環境の分析、規制環境の変化予測まで含めた包括的な調査を行っています。
特に重要なのは、現地の商習慣やビジネス習慣の深い理解です。ベトナムでは人間関係を重視する文化が根強く、長期的な信頼関係の構築が事業成功のために必要となります。多くの成功企業は、現地パートナーとの密接な関係構築に時間をかけて取り組んでいます。
段階的な事業展開とリスク分散
リスク管理の観点から、多くの成功企業は段階的な事業展開戦略を採用しています。最初は小規模な拠点や合弁会社からスタートし、市場への理解を深めながら徐々に投資規模を拡大する手法が一般的です。
また、地理的なリスク分散も重要な戦略として位置づけられています。ハノイとホーチミンの両方に拠点を設けることで、政治的変動や自然災害などのリスクを分散し、事業継続性を確保するなどの方法があります。
現地人材の確保と育成戦略
人材戦略においては、単純な雇用だけでなく、長期的な育成プログラムの構築が成功の鍵となっています。日本企業の多くは、現地大学との連携により新卒採用を強化し、入社後は日本での研修機会を提供することで、企業文化の浸透と技術移転を図っています。
特に管理職レベルの現地人材育成は、事業の持続的成長に不可欠です。現地の文化や商習慣を理解しながら、日本式の品質管理や顧客サービスを実践できる人材の育成が、長期的な競争優位の源泉となっています。
新規顧客獲得とマーケティング戦略
ベトナム市場での新規顧客獲得には、従来の日本市場とは異なるアプローチが必要となります。デジタルマーケティングの活用と現地メディアとの連携により、効果的な顧客獲得を実現している企業が増加しています。
デジタルマーケティングの活用
ベトナムではスマートフォンの普及率が90%を超え、SNSの利用率も非常に高くなっています。Facebook、Zalo(ベトナム製メッセージアプリ)、TikTokなどのプラットフォームを活用したマーケティングが主流となっています。
成功企業の多くは、現地のデジタルマーケティング専門会社との連携により、ターゲット顧客層に最適化されたコンテンツ戦略を展開しています。特に若年層向けの商品・サービスでは、インフルエンサーマーケティングやライブストリーミング販売が高い効果を示しています。
展示会を活用したBtoB営業戦略
BtoB企業にとって、ベトナムの主要展示会への参加は重要な新規顧客獲得手段となっています。VIMF(ベトナム国際製造・加工技術展)やVILOG(ベトナム国際物流展)、MTA Vietnam(金属加工技術展)などの専門展示会では、質の高いビジネスマッチングが期待できます。
これらの展示会では、現地企業との直接的な商談機会が豊富にあり、パートナー企業の発掘や販売代理店の選定において重要な役割を果たしています。また、競合他社の動向把握や市場トレンドの情報収集にも活用されています。
現地メディアとの関係構築
ブランド認知度向上のため、現地メディアとの良好な関係構築も重要な戦略要素となっています。ベトナムでは政府系メディアの影響力が大きく、これらのメディアでの露出は企業の信頼性向上に大きく寄与します。
また、業界専門誌や経済紙への寄稿活動により、企業の専門性や技術力をアピールする手法も効果的です。特に製造業やIT業界では、技術解説記事や事例紹介記事を通じて、潜在顧客の関心を喚起する取り組みが行われています。
地域別の特徴と展開戦略
ベトナムは南北に長い国土を持ち、地域ごとに経済特性や産業集積が大きく異なります。成功企業は、各地域の特徴を理解した上で最適な展開戦略を選択しています。
北部地域(ハノイ周辺)の産業特性
ハノイを中心とする北部地域は、政治・行政の中心地であると同時に、重工業や電子機器製造業の集積地として発展しています。特にバクザン省とバクニン省は、日系企業の製造拠点として高い人気を誇っています。
バクザン省は首都ハノイから約50kmの立地優位性を活かし、自動車部品や電子部品の製造拠点として急速に発展しています。工業団地の整備が進んでおり、インフラ面での投資環境も整っています。日本からの直接投資額も年々増加傾向にあります。
バクニン省では、サムスン電子の大規模工場を中心とした電子機器製造業の集積が進んでいます。この地域では高度な技術を持つ人材の確保が比較的容易であり、品質要求の厳しい電子部品製造において日系企業も成功を収めています。
南部地域(ホーチミン周辺)の商業特性
ホーチミンを中心とする南部地域は、ベトナム最大の経済都市として商業・サービス業が発達しています。消費市場としての魅力が高く、小売業や飲食業の展開に適した地域です。
ビンズオン省は、ホーチミンから北に約30kmの立地にあり、製造業の集積地として注目されています。この地域の工業団地では、日系企業向けのサポート体制が充実しており、進出企業の様々なニーズに対応できる環境が整備されています。
中部地域の新興産業拠点
ダナンを中心とする中部地域は、IT産業の新興拠点として急速に発展しています。政府のIT産業振興政策により、多くの外資系IT企業が開発センターを設立しており、日系企業にとっても注目すべき地域となっています。
この地域では、優秀なIT人材の確保が比較的容易であり、かつ人件費も北部・南部と比較して低く抑えられる傾向があります。オフショア開発拠点の設立を検討している企業にとって、魅力的な選択肢の一つとなっています。
まとめ
ベトナムビジネスで成功を収めている日系企業の事例を通じて、効果的な展開戦略と重要な成功要因が明らかになりました。IT業界から製造業、小売業まで、各分野で異なるアプローチながらも共通する成功パターンが存在することがわかります。成功には以下の点を意識することが大切です。
- 徹底した市場調査と現地文化への深い理解
- 現地人材の確保と長期的な育成戦略が競争優位の源泉
- 段階的な事業展開によるリスク管理が事業継続性を確保
- デジタルマーケティングと展示会活用による効果的な新規顧客獲得
- 現地パートナー連携による商習慣への適応と信頼関係構築
- 地域特性を活かした最適な拠点選択
これからベトナム進出を検討している企業は、これらの成功事例から得られる知見を自社の戦略に活かすことで、より確実な成功への道筋を描くことができるでしょう。重要なのは、単純な市場参入ではなく、現地に根ざした長期的な価値創造を目指すことです。
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