日系企業がベトナム進出を考える際、まずはどこの都市を候補として見るべきでしょうか。
特に初めての進出の場合、言語面の課題、人材の確保、現地の居住環境、さらに他社の成功事例があるのかなど、多くの不安や懸念がつきまといます。そんな中、急速に経済成長を遂げるベトナムの中でも、経済都市ホーチミンから車で1時間の距離に位置する「ビンズオン省」は、進出しやすい環境が整った注目のエリアです。
ビンズオン省には国内最大規模の工業団地が広がり、「Yakult」「Sharp」「日清食品」のような大手日系企業も製造拠点を構えています。さらに、現地企業と東急が共同で進める大規模な都市開発プロジェクトが進行中につき、工業団地を超えて大都市へと成長を遂げつつあります。
本記事では、現地で活躍する日系企業駐在員の声を交えながら、ビンズオン省の持つビジネスと生活両面の魅力を掘り下げます。最後には、進出を検討する企業が利用可能な展示会情報もご紹介します。初めての進出先を検討中の企業様は、ぜひ参考にしてください。
日系製造業の現場の声
営業担当者(ホーチミン現地法人駐在):
「ビンズオンには顧客探しによく行きます。ホーチミンから車で1時間弱とアクセスが良く、日帰り出張が可能です。特にVSIPには日系企業が多く集まっているため、コミュニケーションが取りやすい中で営業活動ができます。」
工場のオペレーション担当(ビンズオン駐在):
「ビンズオンでは、新規工場設立だけでなく、レンタル工場や既存工場の買収といった多様な進出手段があります。自社はレンタル工場で立ち上げました。また、工業団地のインフラが整備されており、安心して事業を進められます。特にVSIPは緑豊かな環境にも配慮されたつくりになっていて、とても綺麗で驚きました。ビンズオンは生活面も快適で、駐在員はSORA GARDENに住んでいますが、住環境も非常に整っています。」
サプライヤー探し 技術担当者(ホーチミン現地法人駐在):
「ビンズオンでのサプライヤー探しは、情報が得やすいという良さがあります。日系企業が多く進出していることから、VetterやFact-Linkといったサイトからある程度情報を集めることができます。更に、ホーチミン商工会議所のビンズオン部会(同商工会議所で最多の加入数)に入することで、現地の日系企業とのネットワークを活用できます。日系企業のQCDの観点からサプライヤー探しの相談に乗ってもらったり、実際に紹介してもらえるのは非常に良い環境です。
ただし、ローカル企業から探すのは容易ではありません。言語の壁やコミュニケーションの難しさを感じる場面も多いです。そのため、展示会に参加し、外国企業との連携に積極的なローカル企業を見つけるようにしています。」
日系企業がビンズオン省を選ぶ理由
現地で働く日本人の声を通じて見えてくるビンズオン工業団地の特徴は、日系企業にとって進出しやすい環境とその利便性、そしてビジネスと生活環境の両面で発展が進んでいるということです。ここでは、その具体的な4つのポイントを掘り下げます。
①地理的優位性
ビンズオン省は、ベトナムで最大の人口を誇る経済の中心ホーチミン市から車でわずか1時間という近距離に位置しており、ホーチミンを拠点とする企業にとって重要なサプライチェーンの一部となっています。また、高速道路(国道13号線、14号線)、主要港湾(カイメップ港、カトライ港)やタンソンニャット国際空港へのアクセスも良好で、原材料や製品の輸送が効率的に行える物流拠点としての魅力があります。
②整ったインフラ
29の工業団地(2021年時点)を有するビンズオン省は、電力、水道、通信、廃水処理といった基盤インフラが充実しています。また、日本人担当者が常駐していたり、日本語対応窓口がある工業団地もあり、そういったところは日系企業が集中して進出しています。
特に有名なのが、今回話を聞いた現地日本人全員から名が挙がった「VSIP(ベトナム・シンガポール工業団地)」で、ベトナムの産業振興政策の一環として、1996年にシンガポールとベトナムの共同で設立された会社*1が開発を開始した工業団地です。ここでは、基本的なインフラだけでなく、シンガポールの品質管理システムが導入されている等、高品質な製品が提供できる環境が整っています。そのため、この工業団地では日本、韓国、台湾など、特に外資系企業が多く進出しており、VSIP-1では225社中62社、VSIP-2では148社中43社が日系企業です。その中には、「ヤクルト」「SHARP」のような大手企業の工場も見受けられます(JETRO発行「2023年8月 ベトナム・ホーチミン市近郊工業団地・レンタル工場データ集」参照)。
③多様な進出選択肢
進出の手段として、新規工場設立に加え、レンタル工場や既存工場の買収といった選択肢があります。これにより、製造する製品や事業計画、コストやスケジュールの観点から最適な方法を選べます。また、上記で触れた通り、ビンズオン省には工業団地が29もあります。有名なVSIPの他、ミーフオック工業団地といったベトナム最大の工業団地(Kubota等、日系企業も57社進出している)もあり、工業団地の立地、インフラ、各種料金帯などの特徴を踏まえて進出先を選べます。
さらに、2020年時点で323社の日系企業が進出しているということからも、既に多くの日系企業が進出した実績があるため、他企業の経験談やノウハウが蓄積されています。これらの情報を活用できることは、初めての進出を検討する企業にとって大きなメリットです。
④快適な生活環境
快適な住環境は、企業がビンズオン省への進出を決定する際の重要な要因となり得ます。特に、駐在員の住みやすさは、人材定着や事業継続性にも直結するため、多国籍企業にとって大きなメリットです。
ビンズオン省は2014年、旧市街から「ビンズオン新都市」へ省都を移転し、象徴的なツインタワーの新庁舎を設立しました。それを契機に、新都市の開発が急速に進行しています。この都市開発を手掛けるのが、日本の東急とベトナムの現地企業べカメックスIDC*2との合弁会社「べカメックス東急」です。ビンズオン省とべカメックスは、新庁舎を中心とした1000haの新都市形成を計画し、まちづくりのノウハウを持つ東急に協力を依頼しました。
その後発足した「TOKYU Garden City」プロジェクトでは、先進的で暮らしやすい街づくりを目指し、住宅、商業施設、交通インフラ、教育・医療機関が次々と整備されています。
住環境については、今回インタビューしたビンズオン駐在員も住んでいる特に新都市内のマンション「SORA GARDEN」が注目されています。近隣にはイオンモールや無印良品、ユニクロなどの商業施設が集まり、日本食レストランも充実。また、公共交通機関として、べカメックス東急が運営する公共バスがホーチミンとの移動を便利にし、通勤環境も整っています。これらの要素により、以前はホーチミン市から車で通勤していた駐在員が、ビンズオンに居住するケースが増加しています。
今後の展望
ビンズオン省は、これまでの成長を支えてきた積極的な外国直接投資(FDI)の誘致やインフラ整備を通じて、今後さらなる発展のポテンシャルを秘めています。
2022年にはFDI受け入れ額で国内第2位を記録、輸出額では全国の約10%を占めるなど、すでにベトナム経済の中核を担う存在になっています。また、人口増加率は近年3〜6%程度で増加しており、国内でもトップレベルで右肩上がり(1995年〜2020年で人口は260%増加と国内1位、2位より3倍近い増加率)、個人所得が国内トップであることも、地域経済の活発さを象徴しています。
今後も工業団地の拡大、交通インフラの整備、都市開発は急ピッチで進んでいくことが見込まれます。特に、ハイテク産業、製造の自動化、環境配慮型の工業団地づくりが重点分野となるでしょう。
展示会の紹介
ビンズオン省の勢いを体感し、情報収集を進めたい企業には、「Vietnam Industrial Manufacturing Fair(VIMF)/2025年6月18日〜20日開催)への参加をお勧めします。
国内最大級の産業展示会であるVIMFは、「工業団地周辺での開催」をコンセプトに、これまで有名工業都市で19回の実績を重ねています。
昨年の展示会では、約2万人の来場者が国内外から集結し、経営層、エンジニア、購買担当者などが新たなビジネスチャンスを求めて活発に交流しました。出展企業には日系の有名企業(YAMAHA、OLYMPUS、BROTHER)や大手外資系企業だけでなく、多くのローカル企業も含まれています。この記事の冒頭で紹介した日系製造業の駐在員も、展示会を「外資系企業との協業を目指すモチベーションの高いローカル企業と直接対話できる絶好の機会」と捉えているとのことでした。
実際に展示会では、企業の担当者と直接顔を合わせ、製品を確認しながら具体的な話を進めることが可能です。一社一社にアポイントを取るのに比べ、時間とコストを大幅に削減できる点も大きな魅力です。この展示会を活用して、ビンズオン省のビジネス環境と潜在力を実感してください。
尚、弊社は、日系企業向けの展示会出展サポートを専門に行う代理店として、主催者((OMG EVENTS MANAGEMENT COMPANY LIMITED)と契約しています。展示会への出展や参加に関心をお持ちの企業様を全面的にサポートしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
ベトナム最大規模の工業団地を有し、都市開発が進むビンズオン省は、製造業やサービス業の多角化が進む注目エリアです。日系企業が進出しやすい環境と豊富なビジネスチャンスを備え、初めてのベトナム進出を検討する企業に最適な候補地です。展示会などを活用し、現地の最新情報を収集してビンズオン省の可能性をぜひ探ってください。
*1 ベトナム・シンガポールの首相がイニシアチブを取って始まった工業団地の開発。ベトナムの産業開発投資公社(Becamex IDC Corp)とシンガポールのSembcorp Industries(SCI)が率いるコンソーシアムによるジョイントベンチャー(Vietnam Singpore Industrial Park Joint Venture Co., Ltd.)が運営。SCIは都市開発事業などでアジア各国で実績のある会社。VSIPはベトナム国内でも工業団地の成功例とされており、ビンズオン省のほか北部バクニン省とハイフォン市、中部クワンガイ省に4拠点の工業団地を開発している。
*2 1976年にベトナムの国営貿易会社として設立され、以来デベロッパー企業として事業を拡大している。
引用
・導入
・日系企業がビンズオン省を選ぶ理由①:1、2
・日系企業がビンズオン省を選ぶ理由②:1、2、3
・日系企業がビンズオン省を選ぶ理由③:1
・日系企業がビンズオン省を選ぶ理由④:1、2、3
・今後の展望:1、2