Home 9 タイ現地情報 9 タイ自動車産業の現在地と今後|生産・輸出データと日系企業の対応策
ベトナム 繊維産業

「アジアのデトロイト」と呼ばれてきたタイ自動車産業は、いま大きな転換点を迎えています。2025年の生産台数は約146万台で、2年連続で150万台を下回りました。国内販売が回復する一方で輸出は減少し、主役は内燃機関車から電動車へ移りつつあります。

新車市場では中国系EVメーカーがシェアを伸ばす一方、日系はHEVと1トンピックアップで強固な地盤を維持しています。この記事では最新データとタイ政府の政策、日系企業の動きを整理し、今後の展望と対応策まで解説します。

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この記事でわかること

  • タイの自動車生産は2025年に約146万台となり、2年連続で150万台を割った
  • 新車市場で中国系のシェアが拡大し、BEVでは9割を占める
  • 日系はHEVとピックアップで強さを保ち、大型投資や生産再編を進めている
  • タイ政府はEV振興と支援策の調整を並行し、2026年の生産見通しは145万台

タイ自動車産業の現在地

生産・輸出・販売のデータから、タイ自動車産業の現在地を確認します。数字はタイ工業連盟(FTI)の発表に基づきます。

2025年は生産・輸出が減少、国内販売は回復

2025年の生産台数は145万5,569台で、前年比0.9%減でした。2年連続で150万台を下回っています。国内新車販売は62万1,166台と3年ぶりに増えた一方、完成車輸出は93万5,750台と8.2%減りました。輸出主導型のタイ自動車産業では、国内販売の回復が輸出の減少を補いきれない構図が続いています。

2026年上半期も国内向け増・輸出向け減

2026年上半期(1〜6月)の生産台数は71万7,212台で、前年同期比1.0%減でした。国内向けが26万8,051台と7.4%増えたのに対し、輸出向けは44万9,161台と5.4%減です。国内向けが増える一方で輸出向けが減る二極化が鮮明になっています。FTIは2026年通年の生産見通しを150万台から145万台へ下方修正しました。

主要指標の推移は次のとおりです。

  • 生産台数 2024年約147万台、2025年146万台(0.9%減)、2026年上期71.7万台(1.0%減)
  • 完成車輸出 2024年約102万台、2025年93.6万台(8.2%減)、2026年上期42.1万台(8.3%減)
  • 国内販売 2024年約57万台、2025年62.1万台(8.5%増)、2026年上期34.7万台(14.6%増)

出典はFTIの発表をまとめたJETROビジネス短信です。2024年の数値は概数で示しています。

中国勢の台頭と日系の防衛戦略

市場勢力図も大きく変わりました。

新車販売で進む中国系のシェア拡大

2025年の新車販売シェアは、日系が76.7%から69.3%へ低下する一方、中国系は11.6%から18.2%へ拡大しました。タイ国際モーター・エキスポ2025では、予約7万5,246台のうち中国系ブランドが54.5%を占めました。トヨタは1万872台でブランド別首位を守っています。

ただし、中国勢の成長は一方的に続くわけではありません。タイ市場では中国EVメーカー同士の競争が激化し、値引き競争や供給過剰が課題になっています。タイ政府がEV3.5の生産義務を調整した背景にも、供給過剰と価格競争への懸念があります。

勢力図はBEVとHEVで真っ二つ

2025年の乗用車BEV登録は12万1,962台と前年比74.3%増え、中国メーカーがシェアの9割超を占めています。BYDが29.4%、MGが15.0%、AIONが11.3%、CHERYが9.8%です。一方、乗用車HEVは13万6,230台とBEVを上回り、日系が96.4%を維持しました。

電動車市場の勢力図は、次のように分かれています。

  • 乗用車BEV 12万1,962台・前年比74.3%増、中国系がシェア90.5%
  • 乗用車HEV 13万6,230台・前年比7.8%増、日系がシェア96.4%
  • 1トンピックアップ 商用車生産の主力、日系がシェア91.2%を維持

タイ政府はBEVだけを育成しようとしているわけではなく、HEV・PHEV・MHEVを含む複数のパワートレインを併存させる方針です。BOIは2026年時点でBEV、HEV、PHEVなどを含むEVサプライチェーン全体への投資を促進し、HEV/MHEV向けの支援も強化しています。Krungsri Researchも、HEV/MHEV生産への投資促進がタイの自動車・部品投資を押し上げていると分析しています。

タイ政府の自動車政策とEV振興策

市場変化の背景にはタイ政府の政策があります。

30@30政策とEV3.5補助金

タイ政府は2030年までに国内生産の3割をZEVにする「30@30」政策を掲げています。2024年から2027年までは購入補助金と物品税・輸入関税の軽減を組み合わせた「EV3.5」が適用中です。補助を受けたメーカーには現地生産の条件が付いています。

HEV減税と生産義務の柔軟化

タイ政府はBEVだけでなくHEVも支援しています。2024年7月にはハイブリッド車の物品税率を引き下げる措置を閣議決定しました。一方、2025年末には生産義務を柔軟化して輸出分を実績に算入できるよう改め、供給過剰と値引き競争への対応を進めています。

主な自動車政策は、次のように整理できます。

  • 30@30政策 2030年までに国内生産の3割をZEVにする目標を設定
  • EV3.5 購入補助金と減税でBEVの普及と現地生産を促進
  • HEV物品税軽減 投資や燃費性能向上を条件に税率を引き下げ
  • 支援策の見直し 生産義務の柔軟化で供給過剰と値引き競争を回避

日系企業の最新動向と対応策

日系メーカーは投資と再編を同時に進めています。

大型投資を続ける日系メーカー

トヨタは2024年12月、タイでのHEV生産に550億バーツ規模の投資を表明しました。いすゞも2026年4月、約150億バーツ(約740億円)を投じる生産ラインの自動化・更新計画がタイ政府に承認されています。マツダは2025年2月にHVラインへ約230億円を投資しています。

再編と多角化が同時に進む

一方、ホンダは2024年7月に2工場を1拠点へ統合し、生産能力を約5割削減すると発表しました。日産は2025年9月に工場統合を完了し、スズキは2025年末までに四輪工場を閉鎖、スバルも完全輸入へ転換しています。部品メーカーでは、加工技術を宇宙や鉄道など他産業へ応用する多角化がJETROのセミナーなどを機に広がっています。

日系メーカーの主な動きは次のとおりです。

  • トヨタ 2024年12月にHEV生産へ550億バーツの投資を表明
  • スズキ 2024年6月に四輪工場の閉鎖を発表(2025年末までに実施)
  • ホンダ 2024年7月に2工場を統合し生産能力を約5割削減
  • マツダ 2025年2月にHV生産ラインへ約230億円を投資
  • 日産 2025年9月にタイ国内の工場統合を完了
  • いすゞ 2026年4月に約150億バーツの投資計画がタイ政府の承認

部品メーカーにも広がるEV関連投資

完成車メーカーだけでなく、部品メーカーにもEV関連の投資機会が広がっています。BOIによると、バッテリー・ESS(蓄電システム)に335億バーツ、モーターやBMS(バッテリー管理システム)、電力制御系などのEV重要部品に125億バーツ、充電・バッテリー交換に97.88億バーツの投資が認可されました。

  • バッテリー・ESS(蓄電システム): 335億バーツ
  • EV重要部品(モーター・BMS・電力制御系など): 125億バーツ
  • 充電・バッテリー交換: 97.88億バーツ

Krungsri Researchは、タイの自動車部品生産が2026年から2028年にかけて年1.5〜2.5%程度の成長を見込んでおり、EV部品への設備投資とローカルコンテンツ(現地調達)政策が成長の柱になると分析しています。エンジン部品など従来型部品を主力とする企業にとって、EV対応部品へのシフトは市場の拡大につながる選択肢です。

タイ自動車産業の今後の展望

データと政策の動きから、今後のタイ自動車産業を展望します。

2026年の見通しと日系企業の対応

FTIは2026年通年の生産台数を145万台と予測しています。国内販売は上半期に14.6%増と回復が続き、BEV登録も84.8%増と急伸しました。輸出の行方は、米国の通商政策と中国勢との価格競争が左右します。日系企業には電動化投資の継続に加え、展示会などを通じた情報収集と販路開拓が欠かせません。

今後のタイ自動車産業を読むうえでのポイントは、次のとおりです。

  • 2026年の生産は145万台程度と、ほぼ横ばいの見通し
  • 国内販売の回復と輸出の減少が同時に進む構図が続く
  • BEVとHEVの両輪で電動化が進み、価格競争は当面続く
  • 展示会は現地の動向把握と商談・販路開拓に有効な場として重要性が増す

日系企業が展示会や商談で特に注目すべき分野は、次の4つです。

分野 注目する理由
HEV/MHEV部品 日系OEMの強みが残り、関連投資が拡大している
EV部品 モーター、BMS、インバーターなどの需要拡大が見込まれる
電子・ADAS 自動車の電子化で搭載部品の需要が増える
生産設備・自動化 EV・HEV生産ラインの高度化で更新需要が生まれる

Krungsri Researchは、HEV/MHEV関連投資によってインバーターや駆動用モーター、減速機などの高付加価値部品への投資が進んでいるとしています。展示会へは「どの分野の需要が伸びているか」という仮説を持って足を運ぶことで、現地の情報収集と商談の質が大きく変わります。

よくある質問

Q. タイ自動車産業の生産台数は今どのくらいですか

A. 2025年は145万5,569台と前年比0.9%減り、2年連続で150万台を下回っています。2026年上半期も輸出向けの減少が全体を押し下げています。

Q. タイの新車市場で中国勢と日系のシェアはどうなっていますか

A. 2025年は日系が69.3%、中国系が18.2%です。BEVでは中国勢が9割超を占める一方、HEVは日系が96.4%を維持しています。

Q. タイ政府は自動車産業をどう支援していますか

A. 2030年までに国内生産の3割をZEVにする30@30政策を掲げ、補助金と減税を組み合わせたEV3.5などを実施しています。HEVの物品税軽減も打ち出しています。

Q. 日系企業はタイ自動車産業の変化にどう対応していますか

A. トヨタがHEV生産に550億バーツを投資するなど電動化投資を続ける一方、ホンダや日産は工場統合で生産体制を再編しました。部品メーカーでは他産業への多角化や展示会を活用した販路開拓が広がっています。

まとめ

タイ自動車産業は、生産の縮小と市場構造の変化が同時に進む転換点に立っています。2025年の生産は約146万台と2年連続で150万台を下回りましたが、国内販売は3年ぶりに増加しました。2026年も国内向けの回復と輸出向けの調整が並行する見通しです。

BEVでは中国勢が9割を占める一方、HEVと1トンピックアップでは日系が強さを保っています。トヨタやいすゞの大型投資に見られるように、タイは引き続き日系企業の重要な生産拠点です。完成車メーカーだけでなく部品メーカーにもEV関連の投資機会が広がっており、変化をチャンスに変えるには、展示会などを通じた現地情報の収集が欠かせません。

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この記事のまとめ

  • ✓タイ自動車産業は国内販売の回復と輸出の減少が同時に進む転換期を迎えています
  • ✓BEVでは中国勢、HEVとピックアップでは日系という勢力図が鮮明になっています
  • ✓現地の展示会や最新データを活用し、タイでの販路開拓を進めましょう

著者:ビッグビート ASEAN推進編集部

ベトナム・タイを中心としたASEAN圏に進出、あるいはこれから進出を計画している事業会社に対し、現地でのBtoBマーケティング領域を総合的に支援する広告会社です。ASEAN圏現地での実務経験や企業支援の実績を基に、現地に根差した信頼性の高い情報発信を行っています。